建物は、基本的には鉄筋コンクリートや軽量鉄骨、または木などで造られており、それぞれに耐用年数が決められています。
それを決めているのは国税庁で、この耐用年数を基準として、建物に対して毎年減価償却という処理を行い、建物の価値の見直しをしています。
今回は、これらの建物の内、軽量鉄骨造の建物を取り上げて、その耐用年数や減価償却についてご説明していきましょう。
木造や軽量鉄骨造などの建物の構造材の種類と特徴
私たちの住まいは、いろいろな構造で造られています。
大まかに分けると、マンションなどは鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造が多く、アパートなどは軽量鉄骨造や木造がほとんどです。
そして一軒家は、木造が8割以上を占めていますが、中には軽量鉄骨や重量鉄骨、鉄筋コンクリートで造られているものもあります。
簡単にそれぞれの構造の特徴をまとめると、まず木造は、他の構造材に比べて低コストで、設計の自由度も高いのが特徴でしょう。
また、以前は地震に弱いとされていましたが、現在の建築基準で建てられたものであれば、耐震性にも問題はありません。
次に軽量鉄骨造は、基本的には厚さ6ミリ未満の鋼材を構造に使用した住宅を言います。
木造よりも強度は高いですが、それに伴いコストも高くなり、工場生産の材料であるため、設計の自由度は低くなります。
ちなみに6ミリ以上のものは重量鉄骨と言い、かなり強度が高いため、柱が少なく大開口が必要な建物に使用されます。
そして、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造は、中高層の建物に多く採用され、高い強度や耐久性、耐震性を備えています。
ただ、工期が長く材料費も高価なため、建築費用が最も高くなるデメリットがあります。
そして国税庁は、これらの構造の特徴から、それぞれに建物の耐用年数を定めています。
国税庁の定める法定耐用年数とは?
この、国税庁が定めた建物の耐用年数を、法定耐用年数といい、国税庁のHPなどで確認することができます。
2018年のデータでは、木造が22年、軽量鉄骨造のうち厚さ3ミリ以下は19年、厚さ3ミリ以上4ミリ以下は27年、重量鉄骨造は34年とされています。
ただ、軽量鉄骨でも厚さ4ミリ超のものは重量鉄骨造に分類されることもあり、軽量鉄骨造としての耐用年数は、長くても27年ということになります。
そして、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造は共に最長の47年とされています。
ところで、耐用年数とは、建物が利用に耐えうる年数のことを言いますが、実際は法定耐用年数を超えて使用される建物はたくさんあります。
築40年超の木造家屋にお住いの方もおられますし、築30年の軽量鉄骨造のアパートなども普通に賃貸されていますよね。
では、軽量鉄骨造の建物は、実際どのくらいの期間居住が可能なのでしょうか。
実は軽量鉄骨のプレハブ工法は、大手ハウスメーカーの家に非常に多く採用されています。
そして、その軽量鉄骨の骨組みに対しては、各メーカーが20年から30年の保証を行っています。
また保証期間が過ぎても、定期的にメンテナンスを行うことで、法定耐用年数を超えても、問題なく住み続けることができます。
国税庁は何のために法定耐用年数を定めているのか
では、なんのために国税庁は法定耐用年数を定めているのでしょうか。
それは、個人所有の建物等の場合、主に各市町村が徴収する固定資産税の算出のためです。
固定資産税は地方税で、不動産の取得時に詳細を申告することで、毎年決まった時期に支払通知書が送られてきます。
皆さんも、戸建やマンションを所有していれば、数万円から数十万円という金額を支払っておられると思います。
ただ、その金額は毎年一定ではないはずです。
その理由は、土地は別として、建物には経年劣化があり、新築と中古ではその資産価値が違ってくるからです。
また土地に関しても、地価の変動がある場合もあります。
ちなみに、経年劣化に合わせて建物等の価値を減らしていく作業を減価償却といい、その基準となるのが耐用年数です。
前述のように、木造と軽量鉄骨造では法定耐用年数が違うため、何年かけてその価値を減らしていくかが違ってきます。
例え取得価額が同じであっても、木造は22年、軽量鉄骨造はそれより緩やかに27年かけて徐々に価値を減らしていきます。
さらに、土地と建物両方に関して、3年ごとに評価の見直しも行われています。
国税庁の定める法定耐用年数は減価償却の計算に使用されている
国税庁が決定する法定耐用年数は、固定資産税のためだけのものではなく、法人の支払う法人税にも大きく関わっています。
もちろん、法人所有の土地や建物にも前述の固定資産税はかかりますが、法人税の算出にも、法定耐用年数が使用されています。
会社が建物を取得した年度に、その費用を一括で計上してしまうと、法人税がその年度だけ大幅に少なくなります。
しかし、実際は建物等は数十年という長期間にわたって事業に使用され、収益を生み出すことに貢献します。
そこで、その固定資産の取得年度に一括で費用化するのではなく、事業に使用する期間にわたって徐々に費用化しようというわけです。
これが、法人における減価償却で、法定耐用年数の間に、一定の金額もしくは一定の率で資産を費用化していくのです。
ところで、もし会社ごとに自由に減価償却を行うとしたら、儲かったときにたくさん減価償却することで、税金を少なくすることができますね。
逆に、通常なら赤字になりかねない場合に少なく減価償却をすれば、赤字を免れることも可能になってしまいます。
そこで、課税の公平性を保つために、国税庁が法定耐用年数を定めているわけです。
では、実際に軽量鉄骨造の建物の減価償却の計算方法について、次に解説していきましょう。
軽量鉄骨造の建物の減価償却の計算をしてみよう
法人税は、国税庁管轄の国税で、減価償却の計算方法も税法で定められています。
ちなみに、平成19年3月31日以前に取得した建物は旧定額法で、それ以降については定額法で計算します。
両者の違いは、残存価額の有無です。
旧定額法は、耐用年数経過時点においても、建物に残存価額が残っているとする考え方で、定額法では、残存価額はなくなっていると考えます。
では、4ミリ厚の軽量鉄骨造の建物で、事業年度の初めに4,800万円で取得した建物を例にとり、減価償却を行ってみましょう。
まず、旧定額法では、耐用年数を経過しても、建物の取得価額の10%は価値が残っているとして計算するため、初年度は次のような計算になります。
・1年目の減価償却の金額→取得価額4,800万円×90%÷耐用年数27年=160万円
つまり、1年間で160万円建物の価値が減ると考え、残存価額が4,800万円の10%の480万円になるまで、毎年160万円づつ費用に計上していくのです。
27年経過すると、160万円×27年で4,320万円減価償却され、残存価額は取得価額の10%の480万円となりますね。
もし、建物の取得が事業年度の途中の場合は、初年度の減価償却は月割りで計上することになります。
そして2年目からは毎年160万円づつ減価償却を行い、残存価額が10%の480万円になるまで、費用化していくことになります。
同じ軽量鉄骨造でも旧定率法と定率法では処理が異なる
同じ軽量鉄骨造の建物であっても、これが定額法になると、残存価額がなくなるため、次のような計算になります。
・1年目の減価償却の金額→取得価額4800万円÷耐用年数27年≒1,777,778円(端数切り上げ)
26年経過すると、合計の減価償却額は1,777,778円×26年=46,222,228円で、残りを27年目で償却することになりますが、ひとつ決まりがあります。
それは、その建物を所有している限り1円の備忘価額を帳簿に残すということです。
そこで、最終の27年目は、4,800万円-46,222,228円-1円=1,777,771円を減価償却し、残る建物の価値を1円とします。
ただ、もちろん使える間はその建物を使用することができますし、売却したりもできますが、帳簿上は1円となるわけです。
これが、法人税における建物に関する減価償却の方法です。
簡単に言えば、国税庁の定める法定耐用年数に基づいて、毎年同じ金額だけその価値を減らすのが減価償却です。
そうすることで、法定耐用年数の期間は、収益に対する費用を均等に配分することができ、適正な利益と適正な法人税が算出できると考えられています。
これらのことから、法定耐用年数とは、実際的な耐用年数とは目的を異にするものと言えるでしょう。
建物の所有は納税の義務を負うことでもある
今回は、建物の構造による耐用年数の違いと、正しい納税のための減価償却の方法についてご紹介しました。
一般的には個人で減価償却を行うことはありませんが、建物という資産を所有するということは、その資産に見合った納税の義務を負うことでもあります。
建物の耐用年数と税金の関係を覚えておいていただければ、何かの際に役に立つのではないでしょうか。