設計の段階でクライアントに見せる平面図には、建築予定の建物はもちろんですが、同時にその建築物の周辺も描き出す必要があります。
とりわけ樹木などの植栽は、その書き方で建築物の印象が大きく変わります。
描かれた樹木の印象によって、建物のコンセプトをより明確に伝えることもできます。
普段目にする木は、枝や葉など複雑に構成されていますが、コツを覚えることで簡単に手早く描くことができます。
平面図や立断面図の役割
建築物や家屋の打ち合わせをしている段階で、依頼者や担当者との情報共有に必要になるのは建物の間取りや外観を描いた設計図です。
設計中はまだ実際の建造物がありませんから、平面図や立断面図などの設計図から得られる情報が頼りです。
分かりやすい図面を書くためには、いくつかのポイントがあります。
線のメリハリがあること、文字の位置、書き方や大きさ、什器の描き方などのコツを抑えることが重要です。
中でも文字を記入する場所には気配りが必要です。
設計図を書いた用紙全体の密度を考慮し、目立つ空白や書き込みのしすぎなど全体に偏りがないようにしましょう。
全体にまとまりのある図面は、先方に建築物のコンセプトが伝わりやすくなります。
そして、建物の周辺の雰囲気を伝えるためには庭木や生垣などの植栽を描き込むと効果的です。
間取りや什器などはある程度の形が決まっていますが、樹木や庭木などは工夫次第で様々な描き方ができますので同じ図面でも随分と印象が変わってきます。
樹木の書き方が平面図・立断面図の持つ情報を深める
どのようなものでも、図面に書くには縮尺を正確にする必要があります。
樹木を描く時も例外ではありません。
縮尺がばらばらでは、描きこみが多く素晴らしい植栽だったとしても、その樹木の効果は半減してしまいます。
特に「庭に樹木の影が落ちる家」や、「緑の多い建造物」など、樹木も建物と同等かそれ以上に重要な要素である場合、依頼主は樹木を置くことで得られる効果を期待していますから、書き方にも配置の仕方にも気を配らなければなりません。
樹木の描き方や描きこみの手段はたくさんありますが、上記のような依頼、またはコンセプトの場合は樹木をある程度忠実に描き起こすことが求められます。
自身の頭の中のイメージをより伝わりやすいものにするためにも、基本の書き方をマスターしておきましょう。
平面図は建築物を上から見た図になります。
木を描くときは上空から眺めるイメージで描きましょう。
立断面図では視点が変わって真横から見た図になるので樹木のとらえ方も平面図とは違ったものになります。
詳しい書き方はこの後の項目でご紹介しましょう。
書き方のコツはシルエットをとらえること!平面図上に木を描く
平面図に描き起こす樹木や植え込みの低木は、上から見た時の大まかなシルエットを想像しながら描きます。
平面図上のほとんどの植栽は円で表されることがほとんどです。
この円の形が真円に近いほど、無機質な印象になります。
ただ円を描くだけでも樹木を描き表せるのですが、円を重ねたり髭のような装飾を書き足すことで図面密度が上がり、よりリアルなものに近づけることができます。
円の形はテンプレートを使って描くと大きさや形が整うので、まずはテンプレートの円を手掛かりに植栽を描いていきましょう。
テンプレートを使い、植栽の密度をあげるには描き込みが必要です。
テンプレートをあて、円の中に枝葉をイメージして円の端に髭状の装飾を描きます。
中心部分は描きこまず、淵に沿って線を入れることできれいに見えます。
輪郭線を描かず装飾だけを描くと繊細に仕上がります。
テンプレートを使わずフリーハンドで描くこともできます。
アレンジしやすいのでスケールにある円の大きさに拘らず描いてみましょう。
植栽を一番早く描ける書き方でもあります。
立断面図で効果的な木の書き方
ここでは立断面図の図面に描く木の書き方について触れていきます。
立断面図とは、平面図上の2点を結ぶ線で地表を切断し、真横から見た様子を指します。
建物の立つ地表、地形、段差や壁などの高さの関係が一目でわかる図面です。
手前の建造物と奥の建物などを同時に描くことができるので、建物が立ったときの雰囲気が掴みやすいことも特徴です。
人物を描きこむとスケール感も出ます。
立断面図に描く樹木は横から見る形になるため、より細かな描写にすることでリアリティが生まれます。
樹木の葉の部分を描きこめば本物に近いものになり、雰囲気がよく伝わります。
描きこみをなくし、輪郭線のみで描くと木は描かれるものの他の建物の情報をころさず、全体をまとめやすくなります。
また、樹木の影を描き入れたり三角形や楕円など、簡略化した木を描くことで、図面全体のイメージを図面にとどめず絵画のような仕上がりにすることもできます。
いずれにしても、伝えたいコンセプトを大切にして描きこみ方を考えていきましょう。
平面図から景色を想像させる!樹木のバリエーションとは
平面図はご説明してきた通り、建物やその周辺を上空から眺めたような図面です。
建物や植栽、地表面に施す装飾の全体像や関係性がとらえやすくなるので、シンプルなものよりも、ある程度の書き込みがされている方が全体のイメージを伝えやすくなります。
樹木の書き方ひとつでも、ガラッと印象が変わるので描き方を模索してみるのも良いでしょう。
前述のとおり、定規やテンプレートを使えば整った雰囲気になります。
フリーハンドで曲線を活かしたり、筆記具を変えてランダムな枝葉の様子を表現すると、より本物に近づきます。
打ち合わせやプレゼンテーションの席でアピールするべきポイントやテーマに沿って描き方を統一させておきましょう。
樹木のバリエーションは、描写の仕方で無数に存在します。
樹幹の位置、木の特徴が分かるような表現で描いていきます。
数本の木が密集している場合には樹木群としてとらえ、樹冠の輪郭部分だけを描く方法もあります。
低木の植え込みなどは幹は描かずに、樹冠の輪郭だけを描くことで背の高い木との差別化をはかります。
ハッチングや点描などの書き方を身に付けてリアルな平面図をつくる
デッサンをするほどの技術を身に付ける必要はありませんが、平面図をより良いものにするために知っておきたい技法が、ハッチングと点描です。
ハッチングとは、短い平行線を重ねることで色のグラデーションを作り出す技法です。
構造物の影を表現するのに多く用いられます。
そのほか、地表面の描写をリアルなものにしたり、タイルなどの装飾を描いたりするのに用いると効果的です。
点描は、筆記具で点を打ちながら全体像を描いていく技法です。
時間がかかりますが、その分丁寧に描くことができるので失敗の少ない方法でもあります。
ハッチングは細く描ける画材を使うと細かな表現ができます。
一方の点描には、使う道具によって描写される形や大きさが異なりますので、画材を使い分けて樹木や地表を描くことも可能です。
このほか、面を塗りつぶす描き方も用いて、建築に使われている素材の質感を表すことができます。
例えばコンクリートの表現には明暗をはっきりさせることで無機質さが際立ちますし、細い線で曲線や柔らかなグラデーションを効果的に描くことができれば木材や樹木、植物の描写がよりリアルなものになります。
伝えるイメージに合わせて書き方を変えていくことが大切です。
樹木は塊やシルエットとしてとらえる
樹木を表現しようとすると、細かな枝や葉の形が目についてしまいます。
しかし、図面に表現するのにそれほど精密な樹木である必要はありません。
樹木の形を想像できるようなシルエットをとらえた書き方をすると失敗がなく、全体のまとまりも良くなります。
枝葉のような細部よりも、樹木を塊として扱うことで木らしさが生まれることもあります。
描くことに慣れてくると、テーマにそった形にアレンジすることも簡単にできるようになっていきます。
表現方法に迷ったら、他の人が描く図面から学ぶことも上達の早道です。