よく「あそこはA社の子会社だから」とか「うちの親会社が」などという言い方をすることがあります。
この親会社と子会社というのは、正確にはどのような関係にあるのでしょうか。
また、親子会社間の取引における利益供与などがニュースで取り上げられていることがありますが、これはどのようなことを指すのでしょうか。
今回は、このような親会社、子会社の関係性や、取引上の注意点についてまとめてみました。
支配するのが親会社、支配されるのが子会社
皆さんも、職場やテレビのニュースなどで、親会社や子会社という表現をよく耳にされると思います。
この親子会社とは、どのような関係にあるかご存知でしょうか。
一般的には、子会社は親会社と経営者が同じであるとか、資本の出所が同じというイメージがあるのではないでしょうか。
もちろん、それも親子会社によく見られるポイントではありますが、正確に規定するなら、両者に支配・被支配関係がある場合にこの表現を使います。
親会社は子会社の株式の過半数を所持しており、それによって株主総会の議決権の過半数を所持することになります。
つまり、子会社の重要な事柄について、株主総会で親会社が意思決定をすることができるわけです。
このような、支配・被支配関係にある会社で、支配する側を親会社、される側を子会社と呼ぶのです。
ところで、この親子会社の間の取引においては、完全なる他社との取引に比べると、取引価格などが比較的自由に決められますよね。
例えば、親会社の采配で子会社に原価で親会社の商品を流して、通常より多くの利益を上げさせることなども可能です。
つまり、意図的に利益を操作しようと思えばできてしまうわけです。
しかし、別法人でありながらそのような行為をすることが、利益供与に当たるのではないかと問題になる場合があるのです。
親会社と子会社の間の取引では利益供与が問題となる
利益供与とは、「会社が特定の株主に対して利益を提供すること」というのが一般的な意味ですが、これは会社法で禁止されています。
そして、利益を供与する主体や利益を受け取る客体が株式会社や株主だけでなく、もっと広い意味で使われることもあります。
親子会社に関して言えば、親会社の利益を子会社に提供したり、その逆の場合も利益供与になることがあります。
この場合、問題となるのは主に税法上です。
親会社と子会社は、同じ会社の本社と支店の関係とは全く違うものです。
例え経営者が同じであっても、基本的には別法人であり、登記や届出、組織運営や決算、税務申告などは各々の会社で行うものなのです。
そして、別法人である以上、お金のやり取りにも妥当性がなければなりません。
例えば、無利息で資金を貸与したり親会社が業績不振の子会社の債権を放棄するなどは、他社間ではあり得ないことですよね。
他にも、親会社の設備の使用を子会社に無償で提供したり子会社の経費を親会社が負担したりすることも、実は利益供与に当たります。
このような場合、税法上では外部と取引した場合の妥当な金額との差額を寄付金として取り扱います。
これによって、この差額は寄付金の損金不算入の対象となり、課税の対象となることがあります。
親会社が支店ではなく子会社を作る理由
このように、親会社と子会社の間で取引する場合、お金のやり取りに気を遣わなければ税務調査などで追徴されることがあります。
しかし、もし本社と支店なら、同じ会社内なので資金の移動や費用負担なども利益供与とは言えません。
では、なぜ敢えて支店ではなく別会社として子会社を設立するのでしょうか。
実は、中小企業は、各事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額については、法人税の軽減税率が適用されるなどの優遇措置があるのです。
ここでいう中小企業とは、資本金や出資金が1億円以下の法人等のことです。
現行制度においては、平成24年4月1日から平成31年3月31日までの間に開始する各事業年度について、本則の19%ではなく、15%の軽減税率が適用されています。
また、消費税では、ある基準期間の課税されるべき売上高が1,000万円以下であると納税の義務が免除されることになっています。
この基準期間とは、法人の場合、前々事業年度のことを言い、新しく設立した法人には基準期間がないため、当初は原則消費税の納税義務は免除されるのです。
このように、支店ではなく規模の小さな子会社を作ることで、本来親会社にかかる法人税や消費税を節税することができるわけです。
100%子会社では同じ取引でも利益供与に当たらない?
ところで、親会社が子会社の株式を過半数以上所有して、親会社が子会社を支配する関係性を親子会社と言うと述べました。
その中でも、親会社が子会社の株式を100%保有している関係を、100%子会社、または完全子会社などと言います。
法人税制においては、この完全子会社に関しては親会社と一体とみなして、グループ法人税制が適用されます。
また、事前申請により、連結決算、連結納税を行うこともできます。
グループ法人税制が適用されれば、グループ間での取引は原則課税されないことになります。
従って、子会社に資産を移転したりしても、利益供与には当たりません。
これによって、グループ内の法人間で資産の移転や再配置などを自由に行い、経営の効率化を計ったりすることも可能になるのです。
他にも、メリットと言える点があります。
例えば、赤字の会社と黒字の会社があった場合、赤字の会社に課税はありませんが、黒字の会社は課税されます。
しかし、グループ法人税制が適用されると、グループ内の赤字と黒字を通算、相殺することができ、課税金額を少なくすることができます。
ただし、連結決算、連結納税は手続きが複雑で、しかも一度適用すると継続しなければなりません。
また、子会社について、前述のような軽減税率などの特例措置が使えなくなるので、デメリットがあることも考えておかねばなりません。
海外の子会社への利益供与は税務署のチェックポイント
これまで見てきたように、親会社と子会社の関係において問題になるのは、税金の計算でです。
子会社が完全子会社でなければ、別法人であるとしっかり認識し、利益供与に当たるような取引をしないことが大切です。
中でも、税務署が常に注目しているのが、外国にある子会社との取引です。
もし、親会社と子会社が利益を自由に調節できるとしたら、どうなるでしょう。
納税に関するルールは、国によって違います。
そこで、税負担が大きい国の利益を意図的に減らし、税負担が小さい国の子会社がその利益を取り込むことで、全体として税金が安くなりますね。
もし、それが可能なら、多くの会社が海外子会社を作ることでしょう。
しかし、このようなことは税法上認められておらず、特に海外の子会社との関係性は厳しくチェックされます。
また、売上の操作だけではなく、費用負担や無利子の資金貸与なども同様です。
結局、国内であっても海外であっても親会社は親会社で、子会社は子会社で適切な会計処理をし、正しく税務申告することがルールと言えるでしょう。
ビジネスの展開を見越して子会社か支店かを決定する
今回は、親会社と子会社の関係性とその取引上の注意点について見てきました。
起業家なら、ビジネスを成功させたら子会社を作ったり支店を増やすなどして、会社の規模を大きくしていこうと考えるのは当たり前のことです。
しかし、その際に次にどのような展開をすべきなのかをしっかり考えておくことが必要ではないでしょうか。
まずは、子会社を設立した場合やグループ化した場合、また、支店とした場合の資本金や売上規模、納税金額のシュミレーションが必要です。
その上で、どのビジネスモデルを選択するかを決定するのです。
それによって支払う税金が変わってきます。
また、税金だけの問題ではなく、効率的なキャッシュマネジメントや経営の実現ができるかどうかという点にも関わってくるのです。
そこで、それぞれの場合のメリット・デメリットをしっかり認識して、自社に合った展開を選択することが大切であると言えるでしょう。
その上で、利益供与や脱税などと言われないような、適切な会計処理を行うことを心がけていただきたいと思います。
ルールを順守して適切な納税、節税を
会社は、基本的に自社の利益を追求するもので、同時に利益に対する納税の義務を負います。
ただ、それが大きな負担になる場合もあり、各社とも節税に余念がありませんね。
しかし、それが利益供与に当たるとなると、逆に追徴課税されることもあり、節税どころの話ではなくなってしまいます。
自社の利益を守るためには、ルールを遵守し、適切な会計処理をした上で、できる節税をすることが大切ではないでしょうか。