金属の金は、英語ではgoldですが、元素記号はauです。
どうして、goldのGでもなく金のKでもなく、auなのでしょうか。
人類にとって大きな価値がある金の歴史を探りながら、金の元素記号がauとなった由来をひも解いていきましょう。
金の発見
金が発見されたのは、今から5000年前~6000年前なので、auの由来も古代にさかのぼる必要がありそうです。
一握りの砂金として、または砂金が発見された川の上流にある山などから一かけらの金塊を発見したことから、金の採掘が始まります。
そのうち、段々と高度な採掘方法に変わっていき、大規模な金の採掘にまで発展します。
金の基本的な探し方は、川で砂金を見つけその川を上流に遡って行くことです。
また、近年、金探知機の開発が進み、昔より金の発見がしやすくなりましたが、こういったテクノロジーがまだ発展していなかった時代には、まず石英を探しそこから金を取り出す方法が取られていました。
これは、石英鉱脈には金が入っていることが多いためです。
さらに、炭素を多く含む温泉地には金脈がある可能性が高いです。
日本でも、金は古くから採取されています。
例えば、佐渡金山、西伊豆の土肥金山、東京の多摩川や金沢の犀川などでも古くから金の採取が行われています。
近年では、北海道の弟子屈町で金が含まれた鉱石が発見されています。
国土が狭い日本にも、まだまだ金が眠っている可能性があるのです。
元素記号auとは?
元素記号auは、原子番号79、原子量196.96655、周期表11族で表される、銅族元素の1つです。
天然では自然金として産出されます。
主として石英脈中で産出し、母岩の風化沈積により砂金として採取されます。
地殻中に単体として存在し、美しい黄金色の軟らかい金属で、融点1063℃、比重19.3です。
金属のなかで最も展延性に富み、厚さ0.1μmの箔を作ることができ、1gを約3000mの線に伸ばすことができます。
金は、イオン化傾向が小さく化学的には安定ですが、王水(濃塩酸と濃硝酸の混合物)に溶け、塩化金酸となります。
青色の光だけを非常に吸収する性質があります。
そのため、青の補色である黄色が際立ち、光の三原色の残りの赤色と緑色が反射して純粋な赤と緑が混ざることで、光る黄色、つまり金色に見えるのです。
あらゆる金属の中で、色彩があり、永遠にその色が美しく輝き続けるものは、元素記号au以外には存在しません。
これが、auの由来のヒントです。
金の採掘量、需要と利用価値
人類がこれまでに掘り出した金の総量は、14万~15万トン程度だと言われており、金の地下埋蔵量は、6~7万トン程度と言われています。
金の供給量は、ここ数年、年間2,500~3,000トン程度なので、あと20~25年ぐらいしか持たないとの意見もあります。
最近のデータでは、世界で最も多く金を算出しているのは中国で、2番がオーストラリア、3番がロシアです。
1880年代は南アフリカが世界の金の産出量の2/3を占めていましたが、その後徐々に衰退し、2014年には、世界総産出量の5%しか産出しなくなり、現在では第6位となっています。
一方、日本の金の産出量は、年間7.5トンで、これは世界の金の産出量のわずか0.2%に過ぎません。
金が精製あるいは加工されたカタチで歴史に登場するのは、古代エジプト王朝時代(BC4000~BC332年)です。
古代エジプト王朝時代のファラオ(王)たちは、太陽を主神とし、太陽のシンボルとして金を崇拝していました。
そして、金は、「富と権力の象徴」としての意味も合わせ持つようになりました。
ファラオたちは、死に際しても金を手放さず、金が何ものにも侵されない性質をもつことから、自らの不変不滅を祈って黄金のマスクをつけ、黄金の棺に入り、黄金の装身具に囲まれて永遠の旅に出ました。
また、金は、古くから貨幣、工芸、装飾品の材料として珍重されているほか、陶器類の着色、メッキ、金箔、歯科材料などとしても需要があります。
他にも、錆びにくく酸などにも侵されにくい、軟らかく加工しやすい、電気をよく通すなどの性質から、電子機器の回路や音響端子のメッキなどにも使われています。
鉄やコバルトといった磁性体と組み合わせることで磁気記録材料としての応用も検討されており、さらには、金をナノサイズの粒子にすると強い磁性を持つことが最近の研究で明らかになっています。
ちなみに、オリンピックの金メダルは、表面が金でメッキされているだけで、中身は銀でできています。
金は銀の約60倍も高価なものですから、開催国の負担を軽減するためです。
金の採掘量、需要と利用価値については、金の元素記号auの由来には関係がないようですね。
auの由来の前に、金の名前の由来について
auの由来の前に、金の名前の由来についてお話します。
金を古代文字(金文)で書くと、左側に小さい鉱物(銅)の塊、右側の上の部分は、「キン」という音を表し、右側に下の部分は、鋳型の形を表しています。
つまり、金は、金属を一定の型に鋳込(いこ)んだ塊の形からできた字ということになります。
また、金という漢字は、土と八(鉱物を示す)と音を表す「今(キン)」からできていて、土の中にある鉱物からできた字だそうです。
金は、金属(金・銀・同・鉄などの鉱物)のことを言いましたが、古くは銅のことを言い、青銅器を作る原料とされ、銅のことを赤金と言ったそうです。
それがのちに、黄金、金銀の金の意味に使われるようになりました。
現在は、「かね・かなもの・金属製の楽器・かたい・黄金・金額・金の純度・黄金色・貴重なもの」の形容詞として使われています。
学術用語の由来は?
元素記号に限らず、学術用語はギリシャ語やラテン語が多いです。
例えば、文化人類学はanthropology、生物学はbiology、経済学はeconomics、物理学はphysicsであり、ギリシャ語に由来します。
一方、生物の学名はラテン語であり、解剖学用語もラテン語で、元素の名前もラテン語がほとんどです。
ギリシャ語は、ギリシャ、キプロス共和国、エーゲ海の島々で使われている言語であり、約1300万人の母国語です。
インド・ヨーロッパ語族の中で、最も古く3000年以上にわたる豊富な記録があります。
紀元前1600年頃からギリシャで繁栄していたミケーネ文明の時代には、古代ギリシャ語が話されていました。
ギリシャ神話の英雄ペルセウスがメドゥーサを倒した時代です。
その1000年後、アテネを中心とするギリシャのアッティカ地方で使われていたのが、古典ギリシャ語です。
この時代、アテネでは、ソクラテス、プラトン、アリストテレスといった哲学者の他、劇作家、建築家、歴史作家などが集まっており、ギリシャ語は哲学と学問の言語でした。
ラテン語は、インド・ヨーロッパ語族のイタリック語派に属する言語であり、元々は古代ローマ帝国の公用語です。
ローマ帝国の勢力拡大とともに、イタリア全土、さらにはヨーロッパ全体に広まりました。
西ローマ帝国崩壊の後も、ラテン語はカトリック教会の公用語であり、中世ヨーロッパの共通語として使用されていました。
現在は死語となったラテン語ですが、学術用語やバチカン市国の公用語として使われています。
金の元素記号auの由来も、そのあたりにあるのでしょうか。
金の元素記号auの由来
金の元素記号「au」は、ラテン語の「aurum」に由来しています。
ラテン語「aurum」の意味は、「光り輝くもの」です。
「黄色」を意味する、「ausom」というラテン語が語源のようです。
ちなみに、同根のラテン語に「aurora(夜明けの黄色い光)」がありますが、これが「オーロラ」のルーツです。
オーロラとは、黄金の光だったのですね。
そして、英語の「gold」は、サンスクリット語の「ghel」に由来しています。
「ghel」には、「輝く」という意味があるため、「glass(ガラス)」の由来にもなったのですね。
他の元素とくっつきにくい金は、腐食しにくく、輝きを失うことはありません。
金でつくられた古代エジプト王ツタンカーメンの黄金マスクは、3000年以上経った現代でも新品のように輝いています。
まさに、時代を超えて光り輝くものである金の元素記号が、「aurum」に由来していることに納得できます。
金は永遠に光り輝き続ける
金は、今から5000~6000年前に発見されてから、時代が変わっていっても、ずっと人を惹きつけてやまない物質です。
この日本でも金は産出され続けており、時の権力者の「富と権力の象徴」としての意味も合わせ持つようになりました。
金の元素記号「au」は、ラテン語の「aurum(光り輝くもの)」に由来しています。
あらゆる金属の中で色彩があり、永遠にその色が美しく輝き続けるものは、元素記号au以外には存在しません。
まさに、金にふさわしい由来の元素記号auだと思います。