法人や個人事業主が不動産を購入、賃貸した場合、仲介手数料をはじめ、諸々の費用がかかります。
これらを経理上記帳する際にはルールがあり、収支をいくつかの分類に仕分けする必要があります。
その仕分けを『勘定科目』と呼びます。
不動産購入も賃貸も、簿記の考え方では『取引』に該当するため記録が必要です。
では、不動産の仲介手数料は、どのような記録を残せばいいのでしょうか。
不動産購入と賃貸の仲介手数料の違い
簿記の考え方では、仲介手数料は購入と賃貸で性質がやや変わります。
勘定科目の説明の前に、不動産の仲介手数料について理解しましょう。
不動産購入の場合の仲介手数料は、土地や物件の購入者が取引成立の後に払う、契約を仲介した不動産会社への成功報酬になります。
金額は、物件の値段が400万円以上なら『購入した土地、物件の値段の3%+6万円』が上限であると、宅地建物取引業法で定められています。
それに対し、賃貸の場合の仲介手数料は不動産の貸主、または借主、あるいは両方が賃貸契約、手続を結んだ不動産会社に支払う成功報酬です。
賃貸の場合は、家賃の1ヶ月分が上限と、こちらも宅地建物取引業法で定められています。
この場合、貸主と借主のどちらが払ってもよいですし、貸主と借主が折半で支払うこともできますが、両者に請求しても上限は家賃の1ヶ月分であり、金額が増えるわけではありません。
このように、同じ『仲介手数料』でも『購入』と『賃貸』で差があることが分かります。
まずは、不動産の形式が購入か賃貸かを確認しましょう。
不動産を購入取得した時の仲介手数料の勘定科目は?
ここからは、不動産の仲介手数料の勘定項目が購入と賃貸で、どう異なるかをご説明いたします。
まずは購入の場合です。
購入の場合は、購入者と不動産会社の二者での取引、賃貸の場合は借主と貸主、そして不動産会社の三者取引になります。
購入の場合、仲介手数料の勘定科目は『付随費用』に分類されます。
付随費用とは、資産取引に関連した費用のことをいいます。
資産取引とは、その資産の取得のようなプラス方向のものと、処分、解体などのマイナス方向のものもありますが、どちらもこの資産取引の中に含まれます。
不動産の場合の付随費用には、購入費用から解体費用まで含まれます。
つまり、購入から処分まで、資産の権利取得~消失までにかかる費用がほぼすべて含まれ、仲介手数料のほかにも、含まれる費用は多岐に渡ります。
購入の場合は、不動産の取得原価(実際に購入した金額)でその金額が資産計上されます。
ちなみに、不動産取得税、固定資産取得に係る借入金利子に関しては、付随費用に含むかは任意とされていますので、『雑費』に含まれることも少なくないようです。
不動産を賃貸したときの仲介手数料の勘定科目は?
不動産を購入した場合、仲介手数料の勘定科目は『付随費用』になることが分かりました。
それに対し、不動産賃貸の場合は、仲介手数料の勘定科目は基本的に『支払手数料』に該当します。
支払手数料とは『報酬』に関する支払を管理する勘定区分です。
不動産の契約とは、不動産会社に業務を委託し手続きを執行して契約を締結してもらうので、仲介手数料は不動産会社がそのノウハウを提供する『情報提供料』と考えられています。
つまり、仲介手数料とは、『情報を提供する対価に報酬を渡す』という関係で成立していると法的には見なされています。
その報酬を支払うため、仲介手数料が『支払手数料』に該当すると考えられるわけです。
ただし、その契約が租税特別措置法関係通達に記載される『正当な対価』と認められない場合は、この費用は『交際費』として取り扱われます。
基本は支払手数料として計上しておけば問題ないので、報酬を支払う=支払手数料と関連付けて覚えておきましょう。
不動産賃貸の礼金の勘定科目とは?
賃貸の場合、仲介手数料は不動産屋さんに支払う『礼金』と扱われる場合があります。
不動産賃貸の礼金の場合は、その金額によって区分が変化します。
礼金の定義は『返還されないお金』ということで、後の返還可能性のある敷金と区別されています。
礼金の金額が20万円未満の場合は、支払の時点で全額費用処理を行うことができます。
その際の勘定科目は『地代家賃』を使います。
地代家賃とは、事業で使っている事務所や駐車場などの賃貸料金のことです。
しかし、礼金が20万円を超えると、この礼金は税制上では『繰延資産』として扱われます。
この場合は『長期前払費用』(資産)に計上し、賃借期間毎に償却計算します。
ただし、金額だけでなく、賃借期間にも規定があります。
賃借期間が5年未満の場合は、規定の期間内での計算になります。
また、賃借期間が5年以上であっても、『5年』での費用償却としての計算になります。
例えば礼金が60万円、賃借期間が6年の場合は、賃借期間を5年(=60ヶ月)に直し
60万円÷60(ヶ月)=10,000円が月ごとの償却費用になるというわけです。
オフィスと自宅を兼ねる賃貸物件の仲介手数料の経費計上について
不動産が賃貸の場合、仲介手数料の勘定科目は『支払手数料』になることは、先ほどお話しました。
しかし、オフィスが購入した自宅など、自身の居住を兼ねている場合、経費に組み込む時に問題が起こってしまいます。
賃貸で事務所を借りて仕事をしている場合は、仲介手数料を全額経費として計上することができます。
例えば仲介手数料10万円を、事業用の口座から支払った場合です。
日付 5/1
借方 支払手数料 100,000円
貸方 普通預金 100,000円
摘要 賃貸物件の仲介手数料
となります。
借方の勘定区分が支払手数料になっています。
逆に、自宅を事務所としている場合は、事業で自宅を使う割合を家事按分しなければなりません。
具体的には、仕事場と家の面積の関連や光熱費、通信費、運送費用等です。
それをした後、適正な一部の額が経費として認められます。
例えば、仲介手数料10万円の中から20%の2万円を家事按分して経費とし、個人用口座として支払う場合です。
日付 5/1
借方 支払手数料 100,000円
貸方 事業主借 100,000円
摘要 賃貸物件の仲介手数料(按分比率20%)
となります。
不動産賃貸と購入の仲介手数料の勘定科目の違い
要素が多岐にわたり非常に複雑ですが、不動産の仲介手数料の勘定科目を考える際に最初に捉えたいのは、その不動産資産を『自己所有』したか否かです。
不動産賃貸と購入の違いとは、その不動産が自分のものになったか、そうでないかで性質が大きく異なります。
不動産を買った場合、事業者は資産を所有するので、その資産は事業主の財産に計上されることになります。
それに対して賃貸の場合、その不動産は借主の所有物になったわけではありませんので、事業主の利益に計上されるのではなく、『支出』によって維持されるということです。
賃貸の場合、それは仲介手数料だけでなく、家賃などその不動産にかかる費用のすべてが支出として考えられます。
購入すれば資産を『取得』したことになり、賃貸はその資産を維持するための『支出』となります。
よって、購入の場合は『資産計上』、賃貸の場合は『支払』になるという考え方が基本になります。
勘定科目に迷ったときは、それが『資産計上』か『支払』かを考えるとよいでしょう。
不動産の仲介手数料の勘定科目は、その性質を見よう
なかなか複雑な区分ですが、不動産の仲介手数料の勘定科目は自己裁量に任される部分もあります。
基本的には『付随費用』か『支払手数料』のどちらかの判断ができれば問題ありません。
まずは賃貸か購入かを確認し、それから細かいところを見ていくとよいでしょう。