「根抵当権」は、不動産関係の人や、法律に携わっている人にとってはおなじみのワードかもしれません。
しかし、一般の人にとっては少し難しいと感じてしまいますよね。
今回は、根抵当権や、その元本が確定する事由などについてみていきます。
元本の確定には、期日が来た場合や破産の場合などいくつかの事由があります。
しっかり覚えて、会社経営などに活かしていきましょう!
根抵当権の前に!「抵当権」とは?
根抵当権については聞いたことがなくても、「抵当権(ていとうけん)」については知っている方も多いのではないでしょうか。
抵当権は、住宅ローンを組んだことのある方なら知っている単語のはずです。
抵当権とは、住宅ローンを組む際に債権者である銀行が、その建物や土地を担保としておくことが出来る権利です。
もし、債務者が住宅ローンの支払いが出来なくなってしまった場合に、債権者である銀行が担保としている建物や土地を取り上げることが出来るのです。
住宅ローンを組む側としては、抵当権が無い方がいいですよね。
しかし、抵当権が無いと銀行はローンを組ませてくれません。
この抵当権を登記することを「抵当権設定登記」と言います。
銀行は抵当権設定登記をすることで、債務者の破産が確定した場合などに優先的に建物や土地を取り上げる権利を国に保証してもらえるのです。
根抵当権とはどんなものなのか?
抵当権についてはお分かりいただけたと思います。
根抵当権(ねていとうけん)は簡単に言うと、抵当権の一種です。
通常の抵当権の場合には、決められた額を返済することで抵当権は無くなります。
抵当権は、返済があるごとに抵当権が消滅し、次の取引が行われる場合には再び抵当権を設定することとなります。
何度も取引をする場合に、毎回抵当権を設定するのは手間がかかりますし、登記をする際の費用もかさみます。
根抵当権の場合には、「極度額」と呼ばれる担保する最大の額を設定します。
あらかじめ決めた極度額の範囲内であれば、取引を繰り返すことが出来るのです。
これにより、取引ごとに抵当権を設定し直すという手間が省けることになりますね。
販売店の経営を例にして考えてみましょう。
極度額が900万円、毎月の仕入れが300万円だった場合には、3ヶ月分は根抵当権が設定された不動産によって保障されているのです。
根抵当権によって、この場合は900万円の間であれば、仕入れと支払いを繰り返していくことが出来るのです。
しかし、販売店の経営はいつでも順調とは限りませんし、最悪の場合には破産ということも想定出来ますよね。
では、販売店の経営が傾いてきて支払いが出来なくなった場合、根抵当権はどうなるのでしょうか。
根抵当権には「元本の確定」というものがあります。
元本の確定についてみていきましょう。
根抵当権の「元本の確定」とは?
根抵当権は、商売などで何度も取引がある場合に便利です。
債権額が0になったとしても、根抵当権は消滅することはないのです。
しかし、根抵当権には「元本の確定」があります。
元本の確定とは簡単に言うと、根抵当権を消滅させる場合に返済する額を明らかにすることです。
根抵当権は通常消滅することはありませんが、なんらかの理由で根抵当権を消滅させたいという事態が起こることがあります。
その何らかの理由の例としては、返済が行われなくなった場合や、そもそもの根抵当権の契約の期間が定められていた場合などです。
根抵当権の元本が確定すると、その扱いは抵当権と同じになります。
それはなぜかというと、元本の確定とは「ある時点でいくらの返済義務がある」と決めることなので、それ以降は新たにお金を貸すことはないことを意味しているからです。
根抵当権の元本を確定させる事由は全部で10個あります。
期日が来ることから、破産をすることなどその事由はさまざまです。
詳しくみていきましょう。
元本の確定の事由は「期限」や「破産」などさまざま①
根抵当権は、元本の確定がなされることで通常の抵当権と同じ扱いになります。
その、元本が確定される事由のことは「根抵当権の元本確定事由」と呼ばれ、期日が来ることや破産など10個の事由があります。
この事由うちのどれか一つでも発生した場合には、元本が確定されることとなります。
①元本の確定する期日をあらかじめ定めていた場合(ただし、設定か変更のときから5年以内でなければならない)
②根抵当権者または根抵当権債務者が死亡するなどして相続が開始され、6ヶ月のうちに指定根抵当権者または指定債務者の登記をしなかった場合
③根抵当権者または根抵当権債務者が合併し、根抵当権設定者が合併したことを知った日から2週間以内または合併の日から1ヶ月以内に元本を確定させる請求をした場合
④根抵当権者または根抵当権債務者が会社を分割することとなり、根抵当権設定者が会社分割したことを知った日から2週間以内、または会社分割の日から1ヶ月以内に元本を確定させる請求をした場合
⑤元本の確定する期日を定めていなかった場合に、根抵当権が始まってから3年過ぎてから、根抵当権設定者が元本を確定させる請求をした場合
元本の確定の事由は「期限」や「破産」などさまざま②
引き続き、元本が確定される事由をご紹介します。
⑥元本の確定する期日があらかじめ定められていない場合に、根抵当権者が元本を確定させる請求をした場合
⑦根抵当権者が抵当不動産につき、競売または担保不動産収益執行または物上代位による差押えの申立てした場合
⑧根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき
⑨第三者の申立てによって、抵当権不動産の競売手続の開始または滞納処分による差押えを根抵当権者が知った場合
⑩債務者または根抵当権設定者が、破産の手続開始の決定を受けた場合
以上の10個の事由が、元本が確定される条件となります。
元本の確定の事由を大きく分けると、期日を定めていた場合と期日を定めていなかった場合とに分けられます。
実務上においては、元本の確定期日を定めていなかったという場合が多いです。
その場合、お金を貸す側である根抵当権者はいつでも元本の確定の請求が出来ます。
反対にお金を借りる側である根抵当権設定者は、根抵当権が開始されてから3年が経つと元本の確定を請求出来ると覚えておくと分かりやすいでしょう。
破産手続開始の決定の効力の消滅
元本の確定の事由の一つに「債務者または根抵当権設定者が、破産の手続開始の決定を受けた場合」という項目がありました。
商売や会社経営などはいつでも上手くいくとは限りませんので、最悪の事態として破産ということも頭に入れておかなければなりませんね。
破産手続が開始されれば元本が確定されるということでしたが、破産手続開始の決定の効力が消滅した場合には元本は確定されません。
これを「破産手続開始の決定の効力の消滅」と言います。
破産手続開始の決定の効力の消滅は、2つの場合に分けて考える必要があります。
それは「破産手続き開始決定の取消し」と「破産廃止」です。
まず、「破産手続き開始決定の取消し」ですが、これは破産手続開始の申し立てに対する不服申立によって、その開始決定が取り消されることです。
破産手続開始が取り消されることによって、債務者は破産手続開始決定を受けなかったことになります。
そのため、「破産手続き開始決定の取消し」は「破産手続開始の決定の効力の消滅」に含まれるため元本の確定は行われません。
一方、「破産廃止」ですが、これは破産廃止が確定することによって、破産手続が将来に向かって中止されるだけであり、破産そのものが消滅することにはなりません。
したがって、「破産廃止」は「破産手続開始の決定の効力の消滅」に含まれないため、元本は確定することになります。
一口に「破産」と言ってもこのような違いがありますので、注意が必要です。
根抵当権は専門的な知識が必要!
根抵当権は、何度も抵当権を登記する手間を省くものでもあります。
しかし、根抵当権を抹消させるためには少々複雑な手続きが必要になってきます。
これらに関する手続きは、専門的な知識が必要になってきますので、実際の手続きや困った場合には弁護士や司法書士にお任せするのが賢明は判断でしょう。