不動産経営では、家賃滞納は大きな問題のひとつです。
できるだけ家賃の滞納は減らしたいものですが、そのためには早めの行動が大切になってきます。
早めに起こすべき行動として、今回の記事では少額訴訟についてお話しします。
少額訴訟にかかる費用はどのくらいで、その費用は誰が負担するのでしょうか。
家賃滞納があっても訴訟は手が出しにくい
不動産経営において家賃の滞納は、死活問題にも発展する大きなトラブルのひとつです。
不動産経営というと、管理は人任せでお金だけ入ってくる、というイメージを持たれている人もいるかと思いますが、そのように簡単なものではありません。
家賃滞納に絡むトラブルは不動産経営には付き物と考え、自分で対処できる法的な知識を身に付けておくことが大切です。
家賃の滞納を回収する、もしくは滞納した人に退去してもらうことを考えたとき、訴訟を考える人もいると思います。
しかし、訴訟をしても簡単に家賃を払ってもらえたり、退去してもらえるものではありません。
部屋の明渡訴訟も大変ですし、滞納家賃を回収するのも難しいものです。
そのため、家賃滞納が起きた場合訴訟をする前に、自力での回収をまず試みましょう。
家賃滞納については、不動産管理会社に任せているから大丈夫、とはいきません。
管理業務の範囲内で連絡や通知は行ってくれるかもしれませんが、「滞納家賃の回収」を不動産業者が業務として行うことはできないからです。
家賃を回収する行為は、「債権回収」と同様で、非弁行為となるため弁護士にしかできません。
不動産管理会社に任せるのではなく、自分が対応するという気持ちで挑まなければならないのです。
とはいっても、個人で対応できることには限りがあります。
しかし、裁判となると事が大きくなってしまいますし費用もかかります。
そのようなときに、裁判ほど費用がかからずに法的な訴訟をする方法として、「少額訴訟」があります。
今回の記事では、訴訟の中でも簡易的な部類に入る「少額訴訟」についてお話しします。
費用がどれくらいかかるのか、誰がその費用を負担するのかについても言及していきます。
少額訴訟を起こすなら早めが肝心
不動産経営をするのであれば、誰でもいちどは家賃の滞納に悩まされたことがあるかもしれません。
滞納した家賃を回収するためには、速やかな行動が大切になってきます。
しばらく猶予期間を設けたり、様子を見てみるとなると、1ヶ月だった滞納が5ヶ月、6ヶ月に膨らんでいってしまいます。
そもそも1ヶ月の家賃が払えない人が、6ヶ月分の家賃を支払うのは難しいでしょう。
そうなると、家賃全額の回収は難しくなってしまいます。
家賃滞納が始まり、督促などを試みても支払いがなかった場合は、早めに見切りをつけて訴訟に踏み切ることも必要になります。
なかなか訴訟に踏み切れない不動産経営者も多いと思いますが、早めに訴訟した方が額も小さく、早く解決する可能性が高くなります。
ここで、おすすめするのが少額訴訟です。
通常の裁判であれば、最低でも2回は公判が設けられるのが一般的で、時間がかかり費用もかかり負担も大きいです。
しかし、少額訴訟であればその心配はありません。
少額訴訟は、簡易裁判のうちで金額が60万円以下の金銭訴訟のことです。
簡易的な手続きで、裁判も1日で終了し判決が出ます。
家賃滞納の場合は滞納額が明白ですので、訴状を自分で作成することもできます。
少額訴訟の利点を詳しく見てみましょう。
少額訴訟は費用も負担も軽いのが利点
少額訴訟の利点は下記の通り3つ挙げられます。
①手続きが簡単
訴訟となると、手続きが大変だと思われている人が多いと思います。
しかし、少額訴訟は専門知識を持っていなくとも自分で訴状を作ることが可能なのです。
そのため、弁護士を雇う必要もありません。
簡易裁判所では、裁判官や書記官が進め方を指南してくれるので、弁護士がいなくても手続きを進めることができます。
②費用が安い
裁判を起こすとなると、どれだけ費用がかかるか不安ですよね。
しかし、少額訴訟はその名の通り、少額で済むのが特徴です。
さきほどお話ししました通り、弁護士がいなくとも手続きを進められますので、費用を抑えられるのです。
そして、例え強制執行になったとしても、1万円から2万円ほどなので費用の面で考えても負担が少なく済みます。
③短期間で判決が出る
裁判は長くかかると思われていますよね。
しかし、少額訴訟の場合、申し立てから判決まで2ヶ月程度と短期で済みます。
原則として審理も1回で、その日のうちに判決がくだされるので、何度も裁判所に行かなければならないという負担もありません。
少額訴訟の具体的な費用
少額訴訟のメリットのひとつに、費用が安いという点がありました。
具体的にどれくらいの費用がかかるのかを見てみましょう。
弁護士に依頼しない場合、裁判自体にかかる費用は、トータルで5,000円~10,000円程度です。
何の費用がかかるのでしょう。
●印紙代
少額訴訟を行うためには、申請書を提出する必要があります。
この申請書に収入印紙を貼って手数料として納付します。
印紙は郵便局などで購入できます。
印紙にかかる費用は、請求金額に応じて変わります。
請求金額に応じて、印紙として納付する手数料はこのようになっています。
請求金額…手数料
~10万円…1,000円
~20万円…2,000円
~30万円…3,000円
~40万円…4,000円
~50万円…5,000円
~60万円…6,000円
●郵券代
郵券は郵便切手代のことです。
訴状の送達や判決の送付などに使用されるため、必要分を購入し裁判所に提出します。
簡易裁判所ごとに費用は変わりますが、一般的に3,000円~5,000円程度です。
●交通費
裁判所までの交通費は自己負担です。
裁判所が遠方であった場合でも、交通費は自己負担であり、裁判後に相手に請求も出来ないことを覚えておきましょう。
●強制執行
少額訴訟で家主側に勝訴判決が出たにも関わらず、滞納した家賃を支払わない場合、強制執行が必要になります。
強制執行は、さらに別の費用が必要になります。
・印紙代
1人の滞納者に対して4,000円の印紙代が必要になります。
・郵券代
3,000円~5,000円
このように、強制執行まで行ったとしても、大きな費用になることはあまりありません。
少額訴訟の費用負担は原則として敗訴者
しかし、大きな額ではなかったとしても、滞納したのは相手でありこちらに非がないのに費用を負担するのは納得がいかないという思いもあると思います。
少額訴訟でも、訴訟費用の負担について、判決で決定されます。
訴訟費用は、原則として敗訴者の負担となります。
そのため、敗訴者が決定する前のかかる費用について立て替えているというイメージです。
訴訟費用には、印紙代・郵券代・訴状の作成費・証人を呼ぶ場合の旅費が含まれます。
反対に含まれないものは、弁護士を雇った場合の弁護士費用・訴状作成を司法書士に依頼した場合の費用などです。
先ほどお伝えした、裁判所までの交通費も含まれません。
判決をくだす場合、裁判所は訴訟費用の負担についての判断も行うことになっていますが、訴状に訴訟費用の負担について記載しておくと良いでしょう。
訴状の「請求の趣旨」のところに、「訴訟費用は被告の負担とする」と記載し、実際に請求したい訴訟費用の内訳についても記載しておきます。
この点については事例に沿った判断が必要になりますので、訴状を作成するときに簡易裁判所に相談することをおすすめします。
和解で負担を求められることも
少額訴訟であれば、今まであきらめてしまっていた滞納についても、もしかしたら請求できるかもしれないと希望が持てますね。
しかし、少額訴訟でもデメリットはあります。
それは「通常訴訟への移行」です。
被告(この場合は家賃滞納者)は、訴訟を通常の手続きに移行させる旨の申述をすることができます。
こうなると原告(家主)が少額訴訟を求めても、通常訴訟手続きに移行されてしまいます。
通常訴訟となると、かかる費用や負担も大きくなってしまいます。
しかし実際のところ、少額訴訟の方が簡易で費用もかからないため、被告にとっても大きなメリットがあり、移行申述がなされるケースはほとんどないようです。
また、場合によっては裁判所による通常訴訟への移行が行われることもあります。
そのようなケースがあるということも頭に入れておきましょう。
もうひとつ、少額訴訟で注意するべきことは、「和解」です。
少額訴訟では、1回の審理で判決が出ます。
迅速な判決は魅力ではありますが、そのため原告・被告双方に妥協を求めることがあります。
具体的な例では、分割払いを求められたり、滞納額の減額を提案されたりします。
勝訴したとしても、相手にお金がなければ支払うことはできません。
そうなると、こちらとしても妥協をしなければならないことも起こるかもしれません。
少額訴訟で勝訴したとしても、滞納額を全額回収できるとは限らない、ということも肝に銘じる必要があります。
だからこそ、滞納額が大きくなる前に少額訴訟で早期の解決を図ることをおすすめするのです。
損害が少額のうちに行動を起こす
家賃の滞納は、金額が膨れ上がってしまってからでないと訴訟が起こせないと思っている人もいるかもしれません。
しかし少額のうちに訴訟を起こした方が、損害も少なく済みます。
訴訟というと、大変で費用も掛かるというイメージが強いのですが、少額訴訟のように負担の少ない訴訟があることを知っておくだけでも違います。
不動産経営者として、法的な知識を持っていることはとても有利なことですので、ぜひ覚えておきましょう。