「高齢になって農業ができなくなった」「農業の跡継ぎがいない」など、農地を持て余している方は少なくありません。
しかし、農地を勝手に転用するわけにはいきません。
では、農地転用するには、どのような手続きが必要なのでしょうか。
また、子ども世代が家を建てるために、農地転用した土地を「分筆」するにはどうしたらよいのでしょうか。
そんな、農地転用の手続きの流れなどを、わかりやすくまとめました。
農地転用とは?
農地転用とは、文字通り「農地をその目的以外に転用すること」です。
日本では、土地の権利を持っている者が農地転用をする場合には「農地法第4条」に基づいて行います。
また、権利の移転や貸借などで他者の農地転用をする場合は「農地法第5条」に基づいて定められています。
原則として広さが4ヘクタールを超える場合は、農林水産大臣の許可が必要とされており、4ヘクタール以下の場合は、都道府県知事の許可が必要です。
こういった農地転用の規制は、食糧の自給用地を確保するためで、特に水田の場合は、農地以外の転用はとても厳しく制限されています。
また、対象の土地が農地かどうかは現状で判断され、登記簿の上での地目とは関係がありません。
一時的な転用の場合も同じで、後に農地に戻すのであっても規制の対象になります。
農地転用に関しては、さまざまな種類があり、手続きの流れや添付書類が複雑なことから、次に挙げる資格者が代理して行うことができます。
・行政書士
・弁護士
・司法書士
・土地家屋調査士
・建築士(一級建築士・二級建築士・木造建築士)
ここから分かるように、農地転用をして家を建てる、あるいは「分筆」するには、さまざまな手続きをしなくてはなりません。
「分筆」と「分割」の違いとは?
あまり聞き慣れない「分筆」とは何でしょうか?
「分筆」とは、登記簿上でひとつになっている土地を分割して登記し直すことで、その登記簿上の土地を一筆(いっぴつ)、二筆(にひつ)と数えることから、「分筆」と言われるようになりました。
「分筆」を行う際の目的は、次のような場合があります。
・土地の一部を処分する場合
・相続した土地を分ける場合
・隣地との境界問題などで、分筆して清算する場合
・融資を受ける場合に、分筆して担保にする場合
・節税対策をする場合
このように「分筆」の理由はさまざまです。
また、原則としてひとつの土地には1軒しか家を建てられないので、別棟を建てる場合には「分筆」しなければなりません。
次に「分筆」に似たもので「分割」があります。
この違いは何なのでしょうか?
先程「分筆」は、「登記簿上で土地を分割すること」とお話ししました。
「分割」は、登記簿上は変わらず、便宜上、机上の線を引くことを言います。
したがって、土地の売却や相続など、権利関係をはっきりさせたい場合は、「分割」ではなく「分筆」する方がよいと言うことになります。
そして、農地転用し、「分筆」をする場合には、確認しておかなくてはならないことがあります。
それは、その農地が「青地」か「白地」かということです。
この「青地」か「白地」かの違いで、農地転用の流れは大きく変わってきます。
農地転用の具体的な流れとは?
それでは、農地転用の手続きについて、具体的な流れを見ていきましょう。
【現状の確認】
農地転用の手続きをするには、現在、農地がどのように利用されているのか確認する必要があります。
法務局で農地の登記簿や公図の写しなど、必要な書類を入手しましょう。
【事前相談】
まずは、申請に必要な情報を集めるために、農業委員会に相談に行きましょう。
その農地の現状を把握し、どのような申請になるのか、申請書の作成に必要な書類をリストアップします。
ここで、その農地が「青地」か「白地」かという問題がでてきますが、それについては次項で説明します。
【申請】
必要書類を集めて、申請をします。
受理されれば、あとはひたすら許可が出るのを待つしかありません。
都道府県知事許可や農林水産大臣許可を必要とするので、許可が下りるまで1か月半ほどかかります。
書類を集めることを考えると、申請までの準備期間は数ケ月かかる場合もあります。
許可が下りれば、「分筆」など、家を建てる準備に入ることができます。
農地転用の分筆の前に「その農地は青地か?白地か?」
それでは、農地転用の「分筆」に重要な、農地の「青地」と「白地」についてご紹介しましょう。
役所の農政課に行き、農地について調べていると、その流れで担当者は当然のように「青地」や「白地」について話してきます。
不動産の知識があれば知っていて当然のことですが、いきなり「青地」や「白地」と言われても、一般にはわかりません。
「青地」や「白地」は、農振法(=農業振興地域に関する法律)による区域のことを言います。
農振法は、農業振興を促進することを目的として指定される「農業振興地域」についての法律です。
「青地」や「白地」は、市町村の農業振興地域の整備計画に基づいて、土地利用計画区分で定められています。
そして、農業振興地域内の農業用区域のことを「青地」と言い、そうでない区域が「白地」です。
農業用区域以外の「白地」には、特別な制限はありません。
しかし、農業用区域の「青地」は、農地転用や開発などの行為が制限されていて、原則として農業以外への転用は禁止されてます。
単純に「分筆」するだけなら問題はありませんが、農地転用は難しくなります。
「青地」を農地転用するための流れ
では、自分の農地が「青地」だった場合、「今後も農地転用することはできないのか?」というと、そうではありません。
農用地区域からの「除外の手続き」を申請するという方法があります。
「青地」をやむを得ず農業以外へ転用する必要があるときには、農振法によって決められた条件に従い、農業振興地域整備計画を変更し、「青地」を農用地区域から除外することができるのです。
各市町村の窓口に「整備計画の変更」の申請をするのですが、受付期間が決まっていて、年に1~2回ほどしか行われません。
申請の流れとしては次の通りです。
1.除外の条件に合っているか確認
2.必要書類を作成
3.書類を提出
4.審議
5.結果通知
書類作成と提出は、土地の所有者であれば作成・提出できますが、行政書士に依頼して作成・提出してもらうこともできます。
また、土地の所有者が複数人いる場合は、全員の同意が必要になります。
このような申請をし、農地転用が認められた場合には、必要な手続きを踏み、「分筆」して家を建てることができるようになります。
家を建てるときの注意点と分筆登記の流れ
最後に農地転用をし、家を建てるための「分筆」の流れをご紹介しましょう。
家を建てるときに注意しなければならないのは、原則として「ひとつの土地にはひとつの建物しか建てられない」ということです。
これは、建築基準法で決められています。
したがって、農地転用をして「子ども世代の家を建てる」「親子で新築をする」など、家を2棟以上建てる場合には「分筆」する必要があります。
【分筆登記の流れ】
通常、分筆登記は確定測量が完了してから行われます。
1.法務局での事前調査
2.確定測量時の境界の状態を確認
3.分筆する際の作成案
4.分筆した際の境界標の設置
5.登記申請用の書類と図面の作成
6.法務局に申請
7.登記完了
「分筆」にかかる期間は、境界線の確定測量が終了しているかどうかで変わってきます。
確定測量が終了している場合は、14~30日ほどですが、終了していないと30~120日ほどかかる場合があります。
また、相続が絡んでいる場合は、相続税の申告期限に注意し、費用と時間の節約のために「分筆」してから相続登記をすることをおすすめします。
農地転用と分筆には手間と時間がかかる
農地転用して家を建てようとしたときには、多くの書類を作成し、申請しなければなりません。
自分の農地がどのようなものなのか、現状はどのようになっているのかなど、書類で明らかにする必要があります。
準備期間を含めると数ケ月かかってしまいます。
この手続きは、自分で行うこともできますが、専門家が行った方が時間もかからずスムーズに手続きできるので、必要に応じて専門家の手を借りることをおすすめします。