貸主が賃貸経営を始めるにあたって、最初に悩むのが家賃の設定ですね。
また、保証金の設定もスムーズな賃貸経営には大事な要素です。
家賃と保証金の設定は、貸主が投資した資金をすべて償却できるかどうかのポイントとも言えます。
今回は、貸主が賃貸経営を始める際に必要となる、家賃、保証金の設定、保証金の償却、賃貸経営における償却、また借主にとっての家賃、保証金の交渉についても記していきます。
家賃の設定方法
賃貸物件の家賃設定は、保証金の決定や投資金額の償却の指針にもなります。
賃貸経営を始めるにあたっての、最初の決定事項と言えます。
その設定方法について記していきます。
まずは、近隣の相場がポイントとなります。
周辺の家賃相場よりも、高く家賃を設定してしまうと入居率が低くなり、賃貸収益が上がらず苦しい経営状態となります。
逆に、家賃を低く設定しすぎると入居があっても収益率が低くなり、投資した資金の回収も困難になってきます。
近隣の家賃相場と大きくかけはなれない、適正な家賃が必要です。
もうひとつは、土地、建物の取得費用、建築費用など、賃貸経営に必要な資金・費用を算出し、それに対して適正な利回りを確保した家賃を算出する方法です。
この方法だけですと、相場より高い家賃設定となりますので、近隣の家賃相場に即した投資金額の決定も大切です。
上記の2点をバランスよく熟慮した上で投資金額や家賃を決定することが、賃貸経営を左右する重要なポイントとなります。
保証金の意味とその設定方法
賃貸経営では、家賃以外に入借主から保証金や敷金を受け取ることが一般的です。
保証金と敷金の違いは、地域によって呼び方が違うだけで同じ性質ものだと解釈していただいてかまいません。
保証金とは、借主の家賃の滞納やその他の債務を担保するために、借主から貸主に預け入れるものです。
具体的には、借主が家賃を滞納したり、原状回復する必要がある場合に、契約解除時に保証金からその費用を控除するということです。
一般的に、保証金は入居時の初期費用として一括で支払います。
家賃の1ヶ月分あるいは2ヶ月分くらいの金額が相場ですが、初期費用としては、いくら預かり金でも借主の負担が大きくなります。
そのため、最近では保証金を相場よりも低く設定したり、あるいは無しとするケースがあります。
また、保証金の相場は、地域によってかなりバラツキがありますので、近隣の相場についての情報収集を行なった上で設定すると良いでしょう。
しかし、保証金の契約内容に「保証金の償却率」が定められていると、少し意味が違ってきます。
次章では「保証金の償却」について記していきます。
保証金の償却とは
保証金の償却とは、どういうものなのでしょうか。
時々、賃貸物件の募集条件に「保証金、年5%償却」と表示されていることがあります。
保証金は前章でも記しましたように、貸主が借主の家賃滞納その他債務を担保するために設定されているものです。
つまり、貸主にとって不測の事態を担保するための預かり金ですから、不測の事態がなければ解約時には当然、借主に対して全額、無利息で返還しなければなりません。
しかし、償却の設定により、保証金の一部を貸主の収入に充当することができます。
例えば、「年5%償却」と設定されている場合、1年毎に保証金の5%が減額されていきます。
仮に、保証金が100万ですと、1年目は5万円で残高が95万となり、2年目は10万で残高が90万ということになります。
一般的にこの設定での契約の場合、更新時に目減りした保証金は一旦もとの100万に戻りますが、契約更新後に同じ年5%で目減りしていきます。
そのため、借主に負担をかける設定ではあります。
家賃の償却とは
家賃が償却されるというのは、契約上、家賃の00ヶ月分を借主が貸主に無条件で支払うという意味です。
また、貸主は金額の返還の必要がありません。
賃貸物件の募集要項にある礼金に該当するからです。
つまり、「保証金(敷金)家賃の00ヶ月分償却」という表示がある場合には、家賃00ヶ月分を解約時に保証金から控除して、借主に返還するという意味になります。
「解約引き」といった表示も、これと同じ意味です。
しかしこれは、前章の「保証金の償却」以上に借主に負担をかける契約内容であり、借主の不評を買っているのが現状です。
長期間、物件を使用して家賃をキッチリ支払い続けていた借主にとっては、「不必要な支払い」と感じるのも仕方ありません。
実際に、契約前に借主より交渉があり、ゼロまたは減額となったケースが多々あります。
貸主としては、早く投資した資金を償却して利益を生みたいところですが、柔軟な対応が今後の賃貸経営の方向性にも関わるので、ケースバイケースで臨みたいところです。
不動産投資に関する償却(減価償却)の意味
不動産投資の場合、最大にして最重要な項目として物件の購入費があります。
その購入費を一括に計上すると、今後長期間生じる家賃、保証金の償却収入と物件の購入費のバランスが取れなくなります。
そこで、建物の資産価値に注目します。
土地の資産価値は、毎年確実に目減りすることはありませんが、建物の減価償却資産は時の経過等によって劣化し、価値が目減りしていきます。
この建物の資産価値の目減りを、会計上、毎年の減価償却費として計上することが税法で定められています。
そのため、一定の方法によって毎年ごとの必要経費として計上していきます。
これが、減価償却という考え方です。
具体的には、建物の構造や用途に応じて「耐用年数(償却率)」が定められています。
そして、建物の購入費用を、耐用年数に渡って配分する、つまり購入費用に償却率を乗じて減価償却費を算定します。
減価償却費は、必要経費としての割合が大きくなりますので、とても重要です。
これを正しく理解しないと、所得を正しく計算することも、税額を算出することもできません。
借主にとっての家賃、保証金の交渉
物件を賃貸する時借主にとって家賃は毎月の固定費であり今後の生活に影響してきます。
家賃の目安は、一般的には月給の3分の1が上限と言われています。
なぜなら、これ以上の家賃を支払うと生活が苦しくなってくるからです。
とは言うものの、借主からすると少しでも生活環境、設備の整った良い物件を借りたいものです。
そこで、貸主に対する家賃、保証金の交渉、償却の有無の確認などが必須となってくるのです。
とりわけ、家賃は毎月の固定の支出ですから重要です。
建物に関しては、年毎資産価値が下落しますので、賃貸借契約時あるいは契約更新時に家賃交渉が入るのも当然と言えます。
「自分が気に入った物件に、できるだけ安い家賃で住む」ということに、家賃交渉の意味があります。
保証金についても、全額返還されるなら貸主の保険としての意味があるかもしれませんが控除されるのであれば意味のない支出と借主は感じます。
しかし、貸主にとっては、家賃や保証金の減少は大切な収入の減少を意味するので安易に承諾できないでしょう。
昔と違って今は様々な情報が溢れており、借主も賃貸借に関する知識も豊富になっています。
貸主も安易に応じる必要はありませんが、まず借主の要望が理にかなっているかどうかを十分に考慮した上で、返事すべきだと思います。
これからの賃貸業界の行方
これまで、貸主と借主の立場から見た、家賃、保証金、償却について記してきました。
賃貸経営も昔と違って、貸主本位の従前の慣習というものが通じなくなりました。
家賃の設定なども市場動向に即した感覚が必要となり、不動産投資に関しても借主のニーズにあった物件購入が昔以上に求められています。
住まいは人間にとって必要なものですから、今後、貸主と借主がお互い「WIN-WIN」の関係で賃貸業界が発展していくとよいですね。