有事の際、一般的にその国の通貨は売られるのが普通です。
しかしながら、日本で有事があった場合、円が買われる現象が起こり、「円高」になる傾向が強くあります。
では、円高が最高値を記録したのは、どのような状況だったのかご存知でしょうか?
この記事では、円高が最高値を記録したときの、背景やその原因について、詳しくご説明していきます。
円高が最高値を記録したのは?ドルに対する円の推移について
近年、投資家の間では「有事の円買い」が常識化しており、特に、日本で有事が起こった際は、円高になる傾向があります。
では、円高が最高値を記録したのはいつでしょうか?
それについて知るために、これまでのドルに対する円の推移について、ざっくり見ていきましょう。
まず、1973年に為替市場にて変動相場制が導入されて以来、1995年4月には、その当時の史上最高値、79.75円を記録しました。
これは、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災が引き金になったものです。
また、2005年までは、長期的な円高ドル安を継続していましたが、日米間の金利差が拡大したことにより、円安ドル高の傾向になりました。
そして2008年、アメリカの大手投資銀行、「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻によって、世界規模の金融危機が起こります。
この未曾有のリーマンショックにより、その3ヵ月後には87.1円を記録し、2008~2013年までのドル円レートは、80~90円という異常な円高傾向になったのです。
そのリーマンショック後の影響もあり、2011年3月に起きた東日本大震災には、76.25円を記録し、さらに同年10月に起こったギリシャ危機も相まったことで、史上最高値の75.54円を記録しました。
つまり、東日本大震災後のギリシャ危機による、75.54円が史上最高値になります。
上記を見て分かるように、円高の進行には、震災が大きく関わっていることが分かります。
では、東日本大震災時の為替ルートについて、詳しく見ていきましょう。
円高最高値の記録には大震災が影響?当時の為替ルートとは
2011年3月11日、日本に甚大な被害をもたらした東日本大震災は、その後の為替レートにも大きな変動をもたらし、同年10月には、史上最高値の75.54円を記録しました。
ドル円の為替レートを見てみると、震災直後の82円はそのまま円高に進行し、3月17日には76.25円という高値を記録しています。
前項での円の推移によれば、これは1995年の阪神大震災に記録した、79.75円を上回る円高になります。
このような異常な円高を受けて、3月18日には、日本銀行とG7各国の中央銀行が連携し、円売りの協調介入を行いました。
その結果、この円売りの円高対策によって、為替レートを円安方向に戻すことに成功しています。
この協調介入については、地震列島である日本にとっては非常に重要な介入であり、今後の有事の円高進行にも、必要不可欠な円高対策になります。
では、なぜ震災後に円高の進行が起こるのでしょうか?
円高最高値の記録には何が原因?リパトリエーションについて
震災後に為替が円高に動くのは、保険会社によるリパトリエーションが原因であると、世間一般では言われてきました。
阪神・淡路大震災後の円高の原因についても、このリパトリエーションが起因していると言われていましたが、現在ではこの説の間違いについて指摘されています。
では、リパトリエーションとはどのようなものなのでしょうか?
リパトリエーションとは、略して「リパトリ」、英語では「本国送還」を意味し、海外に保有している資産を日本へ戻すことを指します。
つまり、投資家や企業などが、海外に保有する株や債権を売却することで、日本円を引き上げることを意味します。
この円高に繋がる現象は、震災だけではなく、金融危機の際にも起こりやすい傾向にあります。
例えば、2008年のリーマンショック、2011年のギリシャ危機後には、このリパトリが起こったことで、円高に繋がる原因の一つになりました。
特に、日本には大規模な対外純資産があるため、このリパトリによる大量の円買いが、ドル円レートに大きく影響し、最高値を記録し得る円高に繋がります。
では、これまで考えられていた大震災後のリパトリについて、具体的にご説明していきましょう。
リパトリエーションとは?震災の円高には起因しない
大震災後に起こり得るとされたリパトリとは、どのようなものなのでしょうか?
それには、「保険料の支払い」が大きなポイントになっています。
保険会社は、保険加入者から保険料を受け取ることで、それを投資資金として運用し、利益を生み出しています。
つまり、顧客が預けている保険金は、保険会社によって日本国内や海外企業・通貨などに、様々な投資が行われているのです。
そして、震災が起こった場合、損保保険会社や銀行は、災害保険料を支払うために大量の円が必要になってきます。
そのため、大量の「円買い」、つまりリパトリが起こることによって、円相場が最高値になるほどの円高を記録したのだと、震災後には言われ続けていました。
しかしながら、最近では、日本の保険会社によるリパトリによって、そもそも円相場を大きく変動させるほどの影響はないと知られています。
また、それに加え、阪神・淡路大震災、東日本大震災時の保険料支払いについては、海外資産を売り払う必要もなく、国内資産だけで十分に賄うことができたので、円高はリパトリの影響ではないとされているのです。
リパトリによる円高でないのだとすれば、なぜ震災が起きると円高になるのでしょうか?
震災後の円高の原因は?円キャリートレードの巻き戻しについて
東日本大震災などの震災後の円高としては、「円キャリートレードの巻き戻し」が大きく関係しているとされています。
「円キャリートレード」とは、「円借り取引」とも言われ、低金利の円を借り入れて高金利の通貨に替えることで、その国の投資に運用することです。
日本の金利は、他の主要国と比べると極めて低いため、平時の場合、低金利の円は売られやすい傾向にあり、投資家はその金利差を利益にしています。
しかし、震災の場合はリスク回避が必要になるので、高金利通貨を売って円を買い戻すことで、円高が急激に進んでいくことになります。
この現象が「円キャリートレードの巻き戻し」と呼ばれ、リスクオフ(リスク回避)に転じた場合は、ヘッジファンドなどの投資家が、この投機に乗じて大量の円売りを仕掛けます。
したがって、この円が巻き戻しによって変われることで、震災後の円高に大きく影響しているとの見方が有力です。
また、阪神・淡路大震災時は、その3ヵ月後に円が79.75円の最高値を記録したことから、地震発生から急激に円高に転じるまでには、タイムラグがあったことが分かります。
しかし、東日本大震災の際は、地震発生からおよそ1週間後に最高値を記録しています。
と言うのも、阪神・淡路大震災での円高経験を元に、投資家が大量の円を仕掛け売りしたことが関係しているのです。
円高は金融危機にも起こる!有事の円買いは今後もあり得る
これまでに、震災後に最高値を記録する円高について、円キャリートレードの巻き戻しが大きく関わっていることをご説明してきました。
このような円高の原因については、震災だけではなく、リーマンショックなどの金融危機においても起こっています。
例えば、2008年に「リーマン・ブラザーズ」が破綻したことによって起きたリーマンショック、世界規模の金融危機も、低金利通貨の円が大量に買われ、円キャリートレードの巻き戻しが起こりました。
また、このときは、リーマンショックの影響が日本企業にも及んだことで、多くの企業が経営困難に陥りました。
そのため、多くの企業が円を必要としたため、保有している海外資産を円に替える、「リパトリエーション」を一斉に行ったことで、円高に繋がったと言われています。
このように、震災や金融危機においては、円買いの方法や理由は違っても、「円買い」が盛んに起こることで円高に繋がっていくのです。
今後も、「有事の円買い」は大いに起こり得ることで、政府はその対策を行っていくことでしょう。
円の立ち位置について知っておこう
震災時には、投資家達の思惑やリスクオフにより、円キャリートレードの巻き戻しが起こることで、円高が進行する傾向にあることが分かりました。
また、方法や理由が違うにしても、このような円高は、リーマンショックなどの金融危機にも起こっています。
低金利の円は、ただでさえ有事の際は買われやすく、更に、日本は対外純資産が多いことを覚えておきましょう。