鉄筋コンクリート造建築物の耐用年数は、実際には何年くらいなのでしょうか?
100年建築という言葉があるように、100年以上使用できるのでしょうか。
それとも、50年しかもたないのでしょうか。
実態調査の結果、50年以上あると認められるなど、鉄筋コンクリート造建築物の耐用年数については、様々な数値が併存しています。
今回は、鉄筋コンクリート造建築物の耐用年数に関して、色々みていきましょう。
建物の法定耐用年数は実際は社会的な耐用年数である
鉄筋コンクリート造50年、鉄骨34年、木造22年、軽量鉄骨造19年。
これらは、税務上定められている、減価償却計算に使用される数値です。
「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の「別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表」に記載され、何度かの改定を経て、現在は上記の数値になっています。
これらの耐用年数は、それぞれの物理的な特性を、科学的に検証して定められたものではありません。
しかし、経済活動上の利用価値が高いため、特に不動産業では広く使われている数値です。
鉄筋コンクリート造に関する耐用年数値は、1951年当時は75年、1966年に65年、1998年には50年(住宅47年)と次第に短縮されてきました。
これは、建物が実際に物理的寿命を迎える前でも、取り壊す事例が多いためです。
また、鉄筋コンクリート造建築物の場合、50年以上使用できるとしても、早めに解体してしまうことも多いのです。
徴税のための数値である、税法上の減価償却計算のための、耐用年数も短縮されます。
そのため、減価償却資産の耐用年数は、社会的な耐用年数と見ることができます。
鉄筋コンクリート造の実際の耐用年数は?
国交省住宅局資料(平成25年8月「期待耐用年数の導出及び内外装・設備の更新による価値向上について」)には、鉄筋コンクリート造建築物の寿命について、参考値ですが、以下の4つの値が提示されています。
1 部材の損傷程度実態調査結果としての50年
2 減耗度合いと、実際の使用年数との関係から推定された値としての117年
3 鉄筋を被覆する、コンクリートの中性化終了から推定した120年又は150年
4 固定資産台帳を基に推計された、年数としての68年(住宅)又は56年(事務所)
参考値とはいえ、これらの情報を見て気付くことは、第一に、非常にばらつきが大きいということです。
最小値が50年、最長値はなんと150年、最小値の3倍の耐用年数となっています。
このばらつきの大きさが、鉄筋コンクリート造建築物の、耐用年数に関する定説をはばんでいます。
また、社会的に常識とされる数値もないと言えるでしょう。
第二に、長い寿命は推定値ですから、いわば理論値ですが、50年は実態調査結果です。
このことから、一般的に鉄筋コンクリート造建築物の物理的な耐用年数は、少なくとも50年は下回らないであろうと、言うことができるでしょう。
鉄筋コンクリート造建築物を100年持たせる意義
第三に、鉄筋コンクリート造建築物が50年から150年も耐久性があるのであれば、その特性を十分に活用することには、大きな社会的意義があるでしょう。
一般に、建築物は莫大な資源を消費します。
理論値としてだけではなく、実際の耐用年数を長期化して、できるだけ長期間使い続けることは、限られた資源の有効活用という観点から極めて有意義なことです。
今後、生産労働人口が減少の一途を辿り、劇的な人口縮小が避けられない日本にとって、資源の有効活用は極めて重要な社会的なニーズです。
例えば、リサイクルとリユースを同時に実現する、中古住宅市場を拡大させることです。
再生産コストの縮減と資源の有効活用という点から、一石二鳥の素晴らしい方策と言えるでしょう。
一般木造や鉄骨造の中古住宅市場もありますが、中古住宅市場は今後、耐用年数の長い鉄筋コンクリート造住宅を中心にした市場へと、シフトしていくでしょう。
併せて、「江戸の華」をもたらした密集木造住宅群は、早急に解決すべき負の都市遺産です。
これは、住民の命と財産を守るためにも、積年の都市計画的課題となっています。
密集木造住宅群を、耐用年数が長く、耐火性能の優れた鉄筋コンクリート造住宅へと転換を図ることは、社会的な要請と言って良いでしょう。
実際の耐用年数を考慮してマンションを購入しよう
第四に、耐用年数に3倍もの開きがあることの意味を、考える必要があります。
それぞれの値に意味があるのであれば、そこには客観的で物理的な理由があるはずです。
なぜ、それほどの差異が生じてしまうのでしょうか?
コンクリートは、打設時の水セメント比や施工精度、打設直後のコンクリートの維持管理内容、表面仕上げ材の有無や種類等々により複雑な影響を受けます。
気候風土、年間を通して浴びる紫外線の積算強度によっても、コンクリートの中性化の進行が大きく左右されます。
埋め込まれた鉄筋の被覆度(コンクリートのかぶり厚さ)によって、鉄筋酸化の進行度合いが影響を受けます。
以上の複合的な要因の結果、実際の鉄筋コンクリートの耐久財としての質=強度がもたらされ、耐用年数が決まることになります。
ここで注目すべきことは、鉄筋コンクリート造建築物の耐用年数は、建設時にほぼ決まってしまうということです。
建築後のメンテナンス(漏水がないようにすること、外壁仕上げ材を適正に維持管理することなど々)や、気候風土によって、耐用年数に影響は出ます。
しかし、決定的な要因は、コンクリート打設や鉄筋を配筋等の新築時の「施工」に依存しています。
マンションは管理を買うだけではなく、施工を買う必要があるのです。
しかし、「施工を買うため」には、必要とする分かりやすい情報が、容易に取得できなければなりません。
しかし、この点は、かなり難しいのが実状です。
そのため、この点についての論考は、別の機会に譲ります。
鉄筋コンクリート造分譲マンションの老朽化
1960年中頃から急速に増えてきた、日本全国の分譲マンションは、平成28年末時点で630万戸を上回っています。
630万戸の内、築後30年以上経過しているマンションは、平成28年末の時点で約170万戸で27%を占めています。
10年後の平成38年末には、築後30年以上経過しているマンションは、その倍の約330万戸に増えると予想されています。
そして、これらの分譲マンションの圧倒的多数は、鉄筋コンクリート造です。
一方、建替工事完成済みの件数推移を見ると、平成16年2月末では87件でした。
しかし、同18年3月末には105件、同26年4月1日には202件、同29年4月1日には232件と増加してきました。
(以上の戸数や件数は全て国交省資料による。)
今後は、ますますマンション戸数が増え続けると共に、老朽化したマンションも増加するので、必然的に建替需要が高まってくると考えられます。
しかし、「ストックに対する建替件数割合は棟数にして0.23%に過ぎない。」との分析もあるくらい、実際の建替事例は存在する全体の棟数や戸数に比べると、極めて少ないのです。
このように、建替が進まない最大の理由は、建替に要する資金問題です。
分譲マンションの耐用年数を長期化するには
容積率にゆとりのある場合には、戸数増を図ることにより、外部からの資金流入が見込めるので、住民負担を少なくすることは可能です。
しかし、多くの分譲マンションは、容積率を目一杯に利用している場合が多いです。
修繕積立金会計から、建替費用を捻出することもままならない場合が多いので、建替費用を一時金等で別途徴収しなければなりません。
そして、建替需要が起こる頃には、そのマンション住民の高齢化が進行してしまいます。
そうなると、収入を年金だけに頼る世帯を増えるなど、一時金の支払いは非常に困難となってしまいます。
こうして、費用を賄えないから建替ができない、背に腹は替えられない、という深刻な状況になってしまうのです。
だからこそ、現実的な対策として建替を先送りし、物理的に使い続けられる限り使用していくこと(建築物の長寿命化)を、資源の有効活用という観点からも考えるべきです。
そのためには、鉄筋コンクリート造建築物の、実際の物理的な耐用年数をできるだけ長期間とするように、建造すべきなのです。
その場合、「スケルトン改修」(躯体だけを残して非構造間仕切り・仕上げ材・諸設備配管を一新する改修工事)を適切に実施することが、重要な施策となります。
しかし、これもまた別の問題ですので、別の機会に譲ることとします。
鉄筋コンクリート造建築物の長寿命化を図ろう
鉄筋コンクリート造建築物は、適切な施工・維持管理・随時の改良的修繕を行えば、100年でも利用し続けることが可能です。
少子・高齢化の進む人口減少社会において、鉄筋コンクリート造建築物の長寿命化を図り、貴重な資源の有効活用を推進することは、社会的に極めて重要な課題と言えるでしょう。