家賃滞納を放っておくことは、貸主にとって大変な損失です。
しかし、借主から確実に滞納分を回収することは簡単ではありません。
裁判所に訴える前に話し合いがついたとしても、この先確実に回収できるか、と不安もあるでしょう。
和解とは、当事者の間でトラブルが発生したけれど、お互いに話し合い、その結果の内容について合意することです。
では、和解の種類やそれぞれの効果について、ご紹介しましょう。
家賃滞納トラブルにおける和解の種類とは?
和解、というと話し合いで折り合いをつける、というイメージでしょうか。
和解には、裁判上の和解と裁判外での和解があります。
そして、裁判上の和解には、裁判前の和解、訴訟上の和解があります。
裁判上の和解とは、言葉のとおり裁判において裁判官が提案した和解の条項をお互いが条件、内容を譲り合い、合意して受け入れるものです。
家賃滞納のケースでは、民事裁判だけでなく、調停などで行う場合も裁判上の和解になります。
裁判外とは、上記以外のものを指し、当事者だけで済ますこともあれば、ADRや代理人を立てるなどして合意書を取り交わすこともあります。
ADRとは、裁判外紛争解決手続きのことで、裁判よりも安価で済み、手続きが簡単で、結果が早く出ることにメリットがあります。
また、裁判前の和解として、即決和解というものもあります。
これは、裁判外で当事者間で話し合いがついている場合、その内容に裁判所がお墨付きを与えるものです。
家賃滞納により裁判をしたい、裁判を避け和解へ持ち込みたいなど、それぞれの立場や状況により合った方法で解決することになります。
家賃滞納における裁判上の和解方法
家賃滞納トラブルにおける裁判での和解では、どのような結果を望むかにより、その手続きに違いがあります。
家賃滞納分を回収する目的であるなら、少額訴訟という方法があります。
少額訴訟は、請求金額が60万円以下、原則1回の期日で判決が出ます。
お互いに弁護人を通さず、早期に家賃滞納を回収するため、借主も支払いをする意向がある場合に適していると思われます。
訴訟中、話し合いがつき、合意すれば和解となり、和解調書が作られます。
この調書に従わないと、貸主は強制執行を申し立てることができますが、あくまでもお金にだけしか効力はありません。
そのため、滞納家賃回収のみならず退去まで借主に求めたい場合は、民事調停か通常訴訟となります。
しかし、それでも訴訟中に和解することは可能です。
訴訟中に話し合い、裁判所からの和解の勧告などにより、お互いに譲歩し納得できれば、その内容を基に和解調書が作られます。
そして、この場合の和解調書には、強制力があり、調書で約束したことを守らないでいると、手続きを経て、強制執行(差し押さえなど)の手続きへ移行することになります。
家賃滞納における裁判前の和解とは?
先ほどは、裁判上の和解についてご紹介しました。
一方で、裁判前に和解することは、起訴前の和解と言い、即決和解とも呼ばれます。
一般的には、貸主や代理人などが家賃滞納している借主と話し合い、和解条項案を作成します。
そして、この和解条項案をもとに、裁判所へ和解申し立てを行います。
審査を経て、期日に裁判所へ出向き、裁判所と双方が合意し、裁判所からその内容について認められると和解調書が作成されます。
この和解調書には、強制力があるので、和解調書にある内容を守らなければ強制執行の手続きとなります。
そのため、この裁判前の和解をするときに、公正証書を作成することがあります。
そして、公正証書を作成する場合は、「この証書に基づいて執行することができる」という趣旨の文言が記載されなくてはなりません。
つまり、この内容を守らないときは強制執行されてもかまいません、という内容を記載するのです。
しかし、滞納分の家賃の支払いや部屋の明渡しについて記載があったとしても、その効力は金銭部分にかかり、部屋の明渡しについては強制できないことに注意が必要です。
家賃滞納における裁判外での和解とは?
そして、裁判所を介さずに当事者(代理人を含む)のみで、話し合い、その内容についてお互い合意することを裁判外の和解と言います。
裁判外では、合意書などの書面にて内容を明確にします。
家賃滞納額を確実に回収したいが、裁判まで起こすつもりはない、などという場合に有効ですが、相手に対して差し押さえなどの強制力はありません。
当事者だけで行う場合は、費用もかかりませんが、相手が約束を守らないとき、滞納額が増す可能性があり、時間や労力が無駄になるおそれがあります。
また、公正証書を作成していたとしても、強制執行には手続きが必要ですので、公正証書があるから回収できる、ということではありません。
そのほか、支払督促という方法もあります。
支払督促は、弁護人を通さず自分でなさる貸主も多く、請求金額に上限もありません。
手続きは書類のみで済み、手数料も通常裁判の半分で済むという点も利用しやすいポイントです。
しかし、相手方の住所の管轄裁判所に申し立てる必要があり、相手が異議申立てすると通常裁判に移行します。
そうなると、もし相手方が遠くに住んでいた場合、そこまで出頭しなければならなくなりますので、注意が必要です。
家賃滞納における解決方法にはADRもある
また、家賃滞納を目的とした裁判外の解決方法として、「ADR(裁判外紛争解決)」というものがあります。
ADRでは、ADR法に基づく法務大臣の認証を受けた機関が「あっせん、調停、仲裁」にあたります。
あっせんは、当事者同士が話し合いをする間にあっせん人1人を置き、解決のためのサポートを行います。
そして、あっせん人からあっせん案が提案されることもありますが、拒否することも可能です。
これにより合意すると和解書に調印しますが、この和解書には強制執行できる効力はありません。
調停は、当事者の話し合いの間に入り、調停人が調停案を出します。
しかし、当事者が合意した結果については、あっせん同様、強制執行する効力はありません。
あっせんと違い、委員人数は3名の合議体で行われます。
仲裁は、仲裁を受けることを合意した当事者が、仲裁人による判断を仰ぐ制度です。
当事者どちらかが参加しなければ成立しません。
仲裁の途中、期日以外で当事者が和解することができます。
また、あっせんや調停と異なり、仲裁人が判断した内容を拒否することはできません。
手続きが簡単であり、解決までの時間が短く、コストの点で裁判と比較すると便利ではありますが、合意が不成立であった場合、後に裁判などが必要となるでしょう。
家賃滞納についてのADR機関としては、社団法人日本不動産仲裁機構不動産ADRセンター、住居地域の弁護士会が行うADRセンターなどがあります。
家賃滞納トラブルは、すぐに専門家へ相談を!
このように、家賃滞納トラブルに悩む貸主においては、自ら少額訴訟や支払督促の手続きを踏まれる方、裁判外で話し合いを持たれる方などがいらっしゃるでしょう。
しかし、これまで見てきた和解の手続きは、いくら簡便な方法があると言っても労力、時間、法律的な知識なしには難しいのではないでしょうか。
また、いくら簡便、早いと言っても、ある程度の期間を見込まなければなりません。
合意書ひとつとっても、盛り込まなければならない条項や確認、注意点がたくさんあります。
それぞれに事情や状況が違えば、解決への筋道も異なります。
確実に家賃滞納分の回収を図る、または裁判や裁判外で和解を希望する場合、専門家に相談した方が結果的に早く、低廉で済むことが多いように思います。
まずは無料相談からはじめ、いくつか比較検討した上で、自分に合った解決方法を選びましょう。
家賃滞納トラブルは自分に合った方法で解決を!
和解とは、トラブルをお互いが条件を譲歩しながら解決へ導き、その内容を合意するものです。
家賃滞納トラブルでは、借主が家賃を支払わない特別な理由(貸主が雨漏りを直してくれないなど)がない限り、貸主側が有利です。
裁判上、裁判外問わず、ケースに見合った方法で早急に解決したいものですね。
また、家賃を滞納されて裁判になってしまった場合でも、専門家の意見に解決の糸口が見つかるはずです。
認可機関、公的機関を有効に活用し早期解決へつなげましょう。