アパートの上階の足音は下階の住人を悩ませますが、管理会社にとっても頭が痛い問題です。
なぜなら、上階の足音に起因する騒音トラブルは、おおかた、日常生活で発生する歩行音だからです。
しかし、そのクレームに対し管理会社の担当者は、「音を立てずに静かに歩いてください」とはなかなか言えないものです。
また、音の伝播上、その足音が直上階とも限らないことが、問題を複雑にします。
今回は、騒音トラブルの中でもやっかいと思われる「足音」をテーマに、管理会社ができる対策をお話します。
アパートで足音が発生する原因と管理会社が対応に悩む理由
まずは、アパートの住人の足音が、他の部屋にまで伝わってしまう原因からお話しましょう。
音をその伝わり方から分類すると、「空気伝播音」と「固体伝播音」に分けることができます。
空気伝播音とは、文字どおり、空気中を音エネルギーが伝播する現象のことです。
普段皆さんが聞いている、テレビやラジオから聞こえてくる音などがそれに当たります。
一方、固体伝播音は、建造物が振動することにより、その振動が音エネルギーとなって現れる現象です。
つまり、アパートの上階の住人が歩くときの衝撃が、床、さらには階下の天井などに振動を与え、足音となって伝わる音現象のことです。
この固体伝播音は、建造物の床や壁を伝わり、隣室や上下階、さらには斜め上下など、直接面していない部屋にも伝わることがあります。
もちろん、建造物の構造体、床の組み立てなどの構法によっても、音の伝わり方、音の性質などに影響を与えます。
また、それに加え、プライバシーなどの関係もあって、管理会社が音の発生源を特定したり、騒音の程度を判断するのは難しいのが現状です。
そのため、アパートの足音に関する苦情への対応は、管理会社にとって大きな悩みなのです。
管理会社が知っておくべき、アパートの床構造と足音の関係
アパートの構造体は、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造に大きく分けることができます。
鉄筋コンクリート造のアパートの床は、おおむね厚さ180ミリ程度(最近では200ミリ以上もある)のコンクリートで造られています。
そして、その鉄筋コンクリートの床の上にクッション性のある床材で、仕上げが施されている場合がほとんどです。
そのため、鉄筋コンクリート造のアパートの場合は、日常の歩行が足音トラブルに発展することは希と考えてよいでしょう。
管理会社を悩ませる足音トラブルが多く発生するのは、やはり鉄骨造や木造のアパートです。
鉄骨造アパートの場合、床の構造は、鉄骨梁に厚さ100~150ミリのALC版(軽量気泡コンクリート)を載せた下地に、または、床用デッキ鋼板にコンクリートを流した下地に、クッション性のある床材で、仕上げたものが多いと推測できます。
ALC版または床用デッキ鋼板と鉄骨梁の組み合わせは、鉄筋コンクリート造ほどの剛性がないため、日常の歩行でも、その音は足音として階下へ伝わることが多いと言えます。
そして、木造アパートの床は、鉄骨造よりさらに剛性が劣る上に、床の構造厚は他の構造と比べて相当薄いです。
よって、アパートの中でも木造アパートが一番、足音トラブルが多いことになります。
特に、古い木造アパートは、防音対策の観念不足から、管理会社にとっては要注意物件です。
最近では、様々な防音対策が取られたアパートも増えてはいますが、木造アパートを建てる際には、防音性に配慮した細心の設計と施工が必要とされています。
管理会社が知っておくべき、アパートの天井構造と足音の関係
アパートの足音対策では、「アパートの床と階下の天井は、併せて防音対策を施す必要がある」と考えておかなければなりません。
なぜなら、天井の下地を支持する吊りボルト、吊り木などは、上階の床、または梁に直接固定されているからです。
そのため、上階の住人の歩行が床を振動させ、さらに階下の天井下地を通して天井全体に振動を与え、階下に足音として伝わることになります。
また、「太鼓現象」となって、足音が増幅していることもあります。
太鼓現象と聞くと何かと思われるでしょうが、皆さんがよく見かける楽器の太鼓のことです。
太鼓の皮をバチで叩くと太鼓内の空気が振動し、大きな音が発生しますよね。
その現象を太鼓現象と言い、建築物でも、床や壁などでよく見られます。
つまり、アパートの上階の住人の歩行時の振動が、床と天井間にある空気を振動させて、太鼓のように音を増幅させるのです。
この太鼓現象を解消するのは、そう簡単なことではありません。
管理会社は、天井の太鼓現象について「建築物ではよくある現象なのだ」と、基礎知識として知っておくべきでしょう。
アパートの足音を、床から防音対策するには
では、アパートの足音トラブルを防ぐ方法を見ていきましょう。
防音対策には、遮音、吸音、防振、制振の4要素があります。
アパートの足音に有効と考えられる床への対策は、固体伝播音のエネルギーを小さくする方法(防振、制振)です。
鉄筋コンクリート造では、その構造上、防振、制振性能は、おおかた備わっています。
鉄筋コンクリートの床上には、クッション性のある床材が仕上げとして使われますが、さらに性能のよい床材を選択することによって、個体伝播音を抑え、防音性能を上げることができます。
鉄骨造、木造アパートでは、衝撃を和らげて個体伝播音を抑えるために、鉄筋コンクリート造よりさらに高い防振性能を持つ床材の選択が求められます。
また、鉄骨造、木造アパートの床では遮音や吸音性能を上げる対策も重要になってきます。
最近では、床の遮音性能を上げるために、床に敷くタイプの遮音シートや遮音マットなどの建材があります。
遮音シートや遮音マットを床仕上げの下地に使うことで、遮音・防振性能の両方を上げることになり、足音によるトラブルを相当軽減できると考えられます。
アパートの床の防音対策が施されてない場合、または、その防音対策が弱いと判断できる場合は、管理会社は床に絨毯を一枚敷き込むことを検討してください。
絨毯一枚で随分と衝撃音を和らげることができますし、吸音効果も期待できます。
最近の絨毯は様々な商品があり、後施工による防音対策に有効です。
アパートの足音を、天井から防音対策するには
アパートの足音対策を天井から考える場合、上階の床から伝わった音エネルギーを吸収させるのが一般的です。
そのため、天井の懐にグラスウールやロックウールなどの吸音材を敷き込みます。
アパートの予算の問題もありますが、吸音材は厚ければ厚いほど吸音効果を発揮するので、太鼓現象にも有効な対策となります。
さらに、太鼓現象を起こさないために、床と天井の間の空気を逃がすための隙間を、天井と壁の間に作っておくとよいでしょう。
特に木造アパートの場合、床の剛性が低く、その振動が階下に伝わりやすいので、上階の床構造と、下階の天井の構造を切り離す必要があります。
それには、大きめの独立した野縁を主体に天井下地を組むという構法を取るので、上階の床から直接振動を受ける、天井下地を支えるための吊り木は使いません。
仮に、階下が6畳の部屋であれば、短辺の壁と壁の間にある柱の上に、天井を支えるための大きめの野縁(例えば45×90程度)を組みます。
この構法によって、上階の床の振動が階下の天井に直接伝わることがなくなり、防振、制振性能は格段に増します。
さらに、遮音・吸音効果の高い天井材を組み合わせて使用できれば、いっそう足音対策になります。
管理会社は、この天井からの防音対策も、基礎知識として知っておいてください。
管理会社にできるアパートの足音対策は他にもある!
アパートを管理する管理会社にとって、管理物件のトラブルは、当然避けたいものです。
特に、アパートの住人間の足音トラブルは、双方が穏便に解決に至ることは難しく、どちらかがアパートを退去することに発展しやすいです。
また、往々にして、次の住人との間にも騒音トラブルは起きやすいものです。
しかし、そのやっかいなトラブルの責任を負うのが、管理会社の仕事です。
最近のアパートの住人同士の人間関係が希薄なこともトラブルが発生しやすい原因ですが、管理会社は、苦情の蓄積、入退去の頻繁さなどから、問題が起きそうな物件の見当はついているものです。
日頃から管理物件に足を運び、住人とのコミュニケーションを図ることによって、大難を小難にすることも可能です。
賃貸借契約時には、アパートの構造特性による足音騒音があることを、あらかじめ説明しておくとよいでしょう。
賃借人も心構えができますし、賃借人自らが、自発的に防音対策に取り組んでくれることも期待できます。
管理会社の重要事項説明としてマニュアル化しておくことも、足音対策の1つの方法と言えます。
住人間の希薄な関係を、管理会社が補う工夫が必要な時代なのですね。
アパートの足音対策は管理会社の基本業務!
音に対する人間の反応は十人十色です。
しかし、その感性に対応しなければ、管理会社は勤まりません。
一番大切なことは、「どんなアパートも床、壁、天井を通して音は伝わる」と認識することです。
その音に賃借人がどう反応しているか、そして、管理会社がどう対応したかです。
賃借人には「何かあったら何時でもご連絡ください」と言って、コミュニケーションを密にしておきましょう。
賃借人の我慢が限界に達する前に、ガス抜きをすることが大切です。