家を建てる際、立地条件が悪い土地では、土地の高低差を埋めるために擁壁を設けることがあります。
擁壁工事にかかる費用は決して安いものとは言えず、その種類や規模など、様々な要素によって変わってきます。
そのため、擁壁工事を必要とする土地の購入を検討している場合は、あらかじめ擁壁についてよく知っておくことが大切です。
この記事では、一般住宅における擁壁の種類を始め、工事費用の目安や注意点についてご説明していきます。
そもそも擁壁とは?
家を建てるための土地を購入する際、立地条件によっては擁壁工事を要する土地も存在しますが、そもそも擁壁にはどのような役割があるのかご存知でしょうか。
擁壁工事の費用の目安についてお話する前に、まずは擁壁についてご説明していきましょう。
そもそも擁壁とは、宅地の盛り土や斜面の崩壊を防ぐための、いわゆる「土留め」の役割を果たす構造物です。
例えば、高い地盤や斜面を切り取ることで土地を平らにする切土や、逆に斜面に土を盛って平らにする盛土などには擁壁による土留めが必要になります。
地震の多い日本において、擁壁は家を守るための重要な基盤であるため、それなりに強固な構造にしなければなりません。
そのため、どうしても擁壁工事には費用がかかってきますが、その素材の種類や規模によっても費用は変わってきます。
素材に応じた形式を使用!擁壁の形式の種類
では、擁壁にはどのような種類があるのでしょうか。
擁壁には様々な種類がありますが、それぞれの素材に適した形式が擁壁工事に用いられています。
その擁壁の形式によっても、かかってくる費用の目安は変わってきます。
●空積み式擁壁
石やコンクリートブロックを積み上げただけの擁壁です。
その間にセメントやモルタルは充填せず、小石などを入れて固定することで擁壁の崩れを防ぎます。
耐久性のない簡素な擁壁なため、一般住宅では使用されず、造園用などで用いられています。
●練積み式擁壁
積み上げた石やコンクリートブロックの間に、セメントやモルタルを充填した擁壁で、より堅固な構造になります。
●重力式擁壁
擁壁を重い材料で構築し、その重量を利用することで土壌からの圧力に抵抗する構造になっています。
重力式擁壁の構造上、一般的には擁壁の下部分は上部よりも前に出るように造られており、構造の安定性を図っています。
●片持梁(かたもちばり)式擁壁
鉄筋コンクリート(RC)製のL字型、もしくは逆T字型の構造で、擁壁を支える斜面の重量によって基礎部分が押さえられる構造になっています。
背後に控え壁を設けることで、耐久性の強化を図ることもできます。
●もたれ式擁壁
比較的安定した土地において、擁壁背面の土壌にもたれるように構築される擁壁です。
練積み式や重力式とは違い、もたれ式は自立していません。
山地の高速道路に多く見られる擁壁です。
上記以外にも擁壁には様々な形式がありますが、一般住宅に設ける場合は上記を参考にすると良いでしょう。
費用の目安は種類によって変わる!素材の種類
では続いて、擁壁の素材の種類について見ていきましょう。
擁壁にはいくつか種類がありますが、一般住宅に設けられる擁壁は以下の3種類になります。
●鉄筋コンクリート造り(RC擁壁)
鉄筋とコンクリートを組み合わせた工法で、鉄筋が組まれた基礎部分にコンクリートが打たれています。
通常のコンクリート造りに比べて強度や耐久性を向上させることができ、擁壁の素材の中では最も安全な強度と言えます。
引っ張る力や衝撃に対して耐久性を持つ鉄筋と、錆びや腐食に強いコンクリートの相性はとても良く、近年ではRC造りの擁壁が主流になっています。
一般住宅では、L型や逆L型などの片持梁式擁壁が用いられることが多いです。
●コンクリート造り
RCに対して、鉄筋を使わない無筋コンクリート造りとも呼ばれています。
コンクリート造りの中では、重力式が最も施工の容易さに定評があり、高さのいらない擁壁を作る場合には、費用も割安になります。
ただし、重力式は比較的安定した地盤に限られると同時に、4m以上の擁壁工事には費用が高くなる傾向にあります。
また、コンクリート造りでは、工場製品のプレキャストコンクリート擁壁と呼ばれるものもあり、品質の良さや工期の短さが評判です。
●石造り
石造りでは、石やコンクリートブロックが積み上げられ、主に練積み式が用いられます。
一般住宅では間知ブロックを用いられることが多く、高さ5m程度の擁壁を造ることができます。
以上のように、擁壁にはいくつか素材の種類があり、その素材に適した形式が採用されます。
では、実際にかかってくる擁壁工事の費用の目安について、次項で見ていきましょう。
擁壁工事の費用の目安は?3種類で比較!
これまでに、一般住宅における擁壁の種類についてご説明してきました。
それを踏まえ、一般住宅で用いられることが多い、間知ブロック擁壁、RC擁壁、プレキャスト擁壁の3種類について、実際の擁壁工事にかかる費用の目安を見ていきましょう。
基本的に、擁壁工事の費用の目安は、1㎡あたり約3~13万円前後と、以下のように幅広くなっています。
・間知ブロック:2.8~4.5万円
・RC:2.5~11万円
・プレキャスト:11~13万円
プレキャストはコンクリート擁壁の一種ですが、工場などであらかじめ作られたものを現場で組み立てるもので、費用は高めになります。
上記の目安を踏まえると、一般住宅の擁壁には、総額で数十万~数百万円かかると見て良いでしょう。
ただし、これはあくまでも目安で、地域によって相場が変化する場合があります。
また、擁壁工事を行う土地の立地や地盤の状況に応じて、工法や重機搬入が変わることもあり、費用に影響してきます。
このように、擁壁工事の費用はただ単に素材の種類や規模だけで決まるのではなく、その土地の様々な要素や現況に合わせて決まってくるのです。
費用の目安は複数社の見積もりから!慎重に比較をしよう
前項では、一般住宅での擁壁工事にかかる費用の目安についてお話ししてきました。
それに続いて、本項では擁壁工事の見積もり比較についてご説明していきましょう。
前述したように、費用の目安はあくまでも目安なので、業者に擁壁工事を依頼する際は、できるだけ複数社に対して見積もりを取ることがおすすめされます。
例えば、1社のみの業者に見積もりを任せるとなると、相場も分からない上に、擁壁へのプランを膨らませることができません。
また、業者の中には高額な費用を請求してくる悪徳業者も存在するため、そのリスクを考えると、1社のみへの依存はできるだけ避けたいところです。
したがって、少なくとも3社ほどに見積もりを依頼し、費用やプランを慎重に比較することで、より確実な業者選びをすることができます。
最近では、ネット上から見積もり依頼ができる無料サービスも増えているので、スピーディーな見積もり比較をしたい方にはおすすめです。
擁壁に関わる注意点!水抜き穴からの排水トラブル
擁壁工事の費用の目安や見積もりについて分かったところで、擁壁に関わるトラブルについてもお話ししていきましょう。
擁壁は意外と隣家とのトラブルを生みやすいもので、住宅地に設ける場合はその点についてもあらかじめ注意する必要があります。
特にトラブルで多いのが、擁壁から出た排水が隣地に流れてしまうというものです。
宅地造成等規制法施行令では、擁壁の強度低下を防ぐために、水抜き穴の設置が示されています。
しかし、民法218条においては、「工作物からの排水・雨水を隣家に流すことは禁止」と規定されているため、規制区域内での擁壁工事の場合、水抜き穴から流れる排水の方向や、何らかの排水設備については、あらかじめ確認しておくことが大切です。
仮に民法218条に抵触すれば、妨害予防請求権により隣家から改善を求められる可能性もあります。
したがって、厄介な近所トラブルを起こさないためにも、あらかじめ業者に念を押し、設計段階でも確認をとることがベストと言えます。
様々な要素で費用は変わる
擁壁工事では、素材の種類や規模はもちろん、地域、立地、地盤の現況といった、様々な要素が費用に影響します。
このことから、費用の目安は大幅に上下するため、複数社において費用の見積もりを依頼し、慎重に比較することが大切です。
できればコストは抑えたいものですが、家を守るための大事な基盤になるため、しっかりと安全な擁壁を建てることが何よりも重要です。