結婚やUターンなどで、両親と同居することになったとき、世帯主は誰になるのでしょうか。
普段は、あまり気にすることのない世帯主という概念ですが、世帯主を親世帯にするのか、子世帯にするのかで変わってくることがあるようです。
知らないで損することがないよう、何が変わるのかを見ていきましょう。
世帯主とはどういう人のこと?
子供のころは、両親のどちらかが世帯主というのが、一般的ではないかと思います。
ですが、もちろん子供は、世帯主は誰かなんてことは、気にもしません。
学校などでは、両親のことを保護者としか位置付けていないので、言葉自体も知らないかもしれません。
世帯主を意識する機会のひとつは、会社に就職し、年末調整の書類を書くときではないでしょうか。
書類には、世帯主を記入する欄があります。
なんとなく父親かなと、考えて書いている人も、いるのではないでしょうか。
ひとり暮らしをしている人は、自分の名前を書いているかもしれません。
世帯主とは、誰なのでしょうか。
「世帯」とは、住居及び生計を共にする者の集まり、又は独立して住居を維持する単身者をいう、と国勢調査令第二条の第2項に規定されています。
そして、世帯主は、その世帯を主宰する世帯員のことを指します。
簡単に言うと、世帯を維持するのに、主となる世帯員です。
例えば、会社員の父と専業主婦の母と子という家族構成の場合、収入を得て家族を養う父が、世帯主になります。
そして、世帯主は誰かを確認したい場合は、住民票を見ればわかります。
国の制度として、国民は居住地の役所に、住所を登録しなければなりません。
その際に、世帯主、同居する世帯構成員と、その続柄を届け出ることになっています。
そして、その世帯の構成によって、課税や給付などの金額が変わってくることがあります。
両親と同居した場合の世帯主は誰になるの?
さて、今回は両親と子供夫婦が、結婚や家の新築を機に、同居する場合について考えてみたいと思います。
両親の家に子供夫婦が同居する場合は、親夫婦の夫が世帯主になっていると思います。
逆に、子供夫婦の家に両親が同居する場合、子供夫婦の夫が世帯主ではないでしょうか。
そして、もうひとつ考えられるパターンがあります。
上のどちらの場合においても、親世帯・子世帯と、世帯主をそれぞれに立てるという場合です。
実は、世帯主はひとつの家に一人でなければならない、ということではありません。
同じ住所であっても、家計が別々ならば、世帯主が二人であっても構わないのです。
そして、世帯主は役所に届け出るだけで、変更することができます。
例えば、結婚して両親の世帯に入ったとしても、後に子世帯だけを別世帯として届け出ることで、2つの世帯に分けることができます。
これを、世帯分離と言います。
まとめると、世帯主とは、家計ごとの代表者です。
ひとつの家であっても、家計がバラバラであれば、世帯分離の届け出をすることで、複数の世帯主を立てることができるということです。
では、どんな基準で世帯をひとつにしたり、分離したりするのでしょう。
その理由や基準を、いくつかの視点から見ていくことにします。
ここでは、複雑にならないよう、親・子世帯のそれぞれの夫は会社員、妻は専業主婦という前提で話を進めていきます。
両親と同居した場合、税制上の扶養関係はどうなる
まず、税制上の扶養という視点から見ていきます。
両親がまだ働いている世代で、同居後、家計がひとつである場合です。
子供夫婦の年収が103万円以下であれば、親の扶養に入ることができます。
扶養に入ることで、父親の収入から扶養控除され、所得税や住民税が少なくなります。
ちなみに、年収103万以下の子世帯は、もともと所得税非課税です。
扶養控除の金額は、所得900万円以下で、親世帯の妻(母親)は38万円です。
年収103万円以下の子供夫婦の夫(息子)は38万円、専業主婦の妻(娘)ならば、19歳以上23歳未満は63万円、それ以外は38万円です。
ただ、結婚した男女が年収103万円以下で親の扶養に入るのは、ちょっと現実的ではないかもしれません。
逆に、親世帯の収入が103万円以下であれば、親を子の扶養に入れることができます。
もし、公的年金を受給している場合は、65歳以下は70万円まで、65歳以上は120万円までという非課税枠があります。
その非課税枠に加えて、基礎控除が38万円あります。
そのため、65歳以下は108万円以下、65歳以上は158万円以下の年収であれば、扶養することができます。
この場合の扶養控除の金額は、子世帯の妻(娘)38万円、親世帯については70歳未満なら一人につき38万円、70歳以上ならば48万円です。
税制上の扶養には、生計をひとつにするという条件があります。
そのため、世帯分離して2人の世帯主を立てた場合、それぞれの世帯主が妻を扶養し、控除は38万円のみということになります。
両親と同居した場合、社会保険上の扶養関係は?
次に、扶養には、社会保険上の扶養というものもあります。
そして、扶養に入れる要件が、税制上の扶養と少し違います。
扶養開始日以降の年収は、130万円未満(60歳以上は180万円未満)かつ、扶養者の半分未満の見込みであることが必要です。
会社員は、勤務先での社会保険の加入が義務付けられています。
そのため、親子ともに会社員の場合は、双方の世帯間での扶養はありません。
それぞれの世帯で、自分の妻を扶養することになります。
厚生年金の扶養対象は、配偶者のみです。
厚生年金に加入している夫の妻が専業主婦の場合は、扶養に入ることで第3号被保険者となり、公的年金の払い込みが不要になります。
扶養する側の年金保険料の増額などは、ありません。
健康保険についても、妻の支払いはなく、国民健康保険でなければ、扶養人数による保険料の増額もありません。
両親と同居する場合の社会保険上の扶養は、親が退職した後のことになります。
親世帯が収入要件を満たせば、子の扶養に入れます。
ただ、世帯分離した場合は、世帯主が別々のため、生計維持関係がないと判断されてしまいます。
この場合、親世帯は国民健康保険に加入しなければならず、保険料の支払い義務が生じます。
世帯主を分けると介護費用が安くなる?
今度は視点を変えて、介護費用の自己負担割合の違いについて、見ていきます。
40歳になると、健康保険料と一緒に、介護保険料が徴収されていますよね。
この介護保険は、原則65歳以上で介護が必要となった人が、サービスを受けることができるという国の制度です。
要介護度によって受けられるサービスが分かれており、費用にすると月額49,700円~358,300円までの幅があります。
そして利用者は、費用の1割を自己負担することになります。
ただし、高齢の年金生活者などは、1割でも厳しい場合があるため、1ヶ月の自己負担額には収入に応じた限度額が設けられています。
ポイントは、この収入です。
対象となる収入は、世帯全員の収入を合計したもの、という規定になっているのです。
ひとつの要件を取り上げてみます。
「世帯全員が住民税非課税世帯で、公的年金等とその他の所得の合計が年間80万円以下の人」は、第2段階の負担を負うとして、上限が15,000円となっています。
358,300円のサービスを受けて、1割負担で35,830円のところ、15,000円になるのです。
年金で年収78万円の高齢者世帯でも、同居単一世帯として、子供の世帯の年収も合算の対象となれば、要件を外れてしまうことになります。
そのため、両親と同居している子供夫婦が世帯分離をして、各世帯に世帯主を立て、介護の負担を減らすということもあるようです。
世帯主を誰にするか、世帯分離するかは状況次第
このように、両親と同居する際に世帯主を誰にするのが良いか、世帯分離すべきかどうかということは、個々の状況によって変わってきます。
税制上の扶養や社会保険上の扶養、介護費用の他にも、細かく言えば、いろいろあります。
保証人が必要な場合、世帯分離していれば、双方で保証人になることができます。
また、世帯分離している場合、役所に子供世帯の住民票を取りに行くだけでも、委任状が必要になります。
子供の収入が低く、親の世話になっているような場合は、親の扶養に入るのも良いでしょう。
定年などで親子の年収が逆転した場合、親が子の扶養に入ることもあるでしょう。
老後、介護費用の負担があまりにも大きな場合は、世帯分離もひとつの手段といえるかもしれません。
このように、年代や状況に合わせて世帯主を誰にするか考えることで、いろいろなメリットを享受することができるのです。
逆に、知らないとメリットどころかデメリットになることもある、ということを覚えておきましょう。
面倒がらずにプロに確認することも大切
国の制度や法律は、ややこしいですよね。
調べるのが面倒で、放置してしまうこともあるでしょう。
しかし、お勤めの方であれば、総務の担当者や会社の顧問の社労士さんなど、プロの意見を聞くこともできます。
面倒がらずに、家族にとって最も良い方法を見つけ、両親との同居生活をメリットのあるものにしましょう。