2012年12月に発足した、第2次安倍内閣によるデフレ経済脱却のための政策を、安倍首相の名前に因んで「アベノミクス」と言うことは有名ですね。
ところで、2018年現在、安倍首相による政権は続投中ですが、このアベノミクスが失敗であるとする所見が、経済誌などで述べられています。
本当に、アベノミクスは失敗したのでしょうか。
もしそうだとしたら、その責任は誰にあるのでしょうか。
アベノミクスに至るまでの日本経済
安倍晋三氏が自民党総裁に返り咲き、第2次安倍内閣を樹立してから、それまでの長年にわたるデフレ経済を克服する政策が打ち出されました。
大胆な金融緩和、機動的な財政出動、民間投資を喚起する成長戦略を「三本の矢」と称するこの政策は、アベノミクスと言われ流行語になりましたね。
1990年代にバブルが崩壊してからの日本は、地価の下落や不良債権の拡大によって低成長期に突入しました。
その後、2002年頃からの景気の回復期を経て、続く2008年にはリーマンショックによる株価の大暴落が起こります。
そして、それをきっかけとする世界同時不況の波に日本も飲み込まれていきました。
倒産、リストラ、賃金の低下などで、私たち国民の消費意欲は底辺まで落ちてしまったといっても過言ではないでしょう。
物価は下落し、企業の利益は下がり、国民の収入も減り、日本はデフレスパイラルを抜け出すきっかけを失ってしまったのです。
そこに登場したのが、第2次安倍政権でした。
しかし、その政策に対しては、当初から一部で失敗を懸念する声がありました。
そして、それから5年余りを経て、現在、アベノミクスの失敗を公言し、その責任を追及しようとする声まで上がっています。
では、何をもってアベノミクスが失敗だと言うのでしょうか。
アベノミクスが失敗と言われる理由はインフレ率2%目標のせい
アベノミクスの金融政策は、政策金利の操作によってデフレを抜け出し、なおかつ本格的なインフレには達していない状態を実現しようというものでした。
これを「リフレ政策」と言い、そのために物価を2%上昇させる目標を立てたのです。
消費者にとって物価の上昇は歓迎できませんが、実は経済全体で見ると、デフレ状態では、従業員を雇用したり給与を支給する企業が儲かりません。
そこで、企業を儲けさせて、その利益を国民に分配できるレベルに持っていくことができるのが、2%のインフレであると判断したわけです。
アベノミクスが始まった当初(2013年)のインフレ率は0.34%でした。
その翌年は2.76%で、いきなり目標を達成したかのように見えますが、実は2014年に消費税増税が行われたことによる、駆け込み需要がインフレの要因とされています。
その証拠に、2015年には0.79%、2016年には-0.11%、2017年には0.47%と低迷が続き、現在でも2%にはかすりもしていません。
このような点を捉えて「アベノミクスは失敗である」と、安倍首相や責任政党である自民党を批判する向きが声を上げているのです。
ただ、経済誌などを読んでも、(アベノミクスが失敗だとして)どうすればよかったのかについて言及している記事は見当たりません。
しかも、まだ政権は続いていて、アベノミクスも継続中です。
これらの批判は、今のところ、ただの結果論でしょう。
GDPや賃上げ率が上昇していても失敗だ責任問題だと言えるのか
問題は、なぜインフレ率の目標が達成できないかという点です。
アベノミクスの金融政策は、日銀の政策金利を操作することによって、世の中の通貨流通量を増やし、景気をよくしようとするものです。
安倍内閣は、ゼロ金利政策を推し進めた白川氏に代わり、2013年、日銀総裁に黒田氏を任命し、異次元緩和と呼ばれるマイナス金利政策を打ち出しました。
政策金利が下がると、一般の銀行はダブついた資金を企業や個人に貸し付けることで、金利を得ようとします。
それによって、企業や個人にお金が流通し、企業の設備投資が進み、雇用が拡大します。
さらに、個人の消費意欲も刺激され、物が売れて企業にもお金が流れるわけです。
しかし、黒田氏の就任から5年を経ても、いまだインフレ率は2%に届いていません。
ただ、これだけを捉えて「アベノミクスは失敗だ、責任問題だ」と言うのはどうなのでしょうか。
なぜなら、景気が回復していないわけではないからです。
景気の1つの指標であるGDPなどを見てみると、異次元緩和を開始した2013年には、実質、GDPは2.62%上昇しています。
その後、2014年の消費税増税によりマイナス成長に転じましたが、翌2015年以降は1%以上の成長を続けているのです。
また、企業だけでなく、国民の生活に直結する賃上げ率も、5年連続で2%を超え、2018年は2.26%と3年ぶりに前年を上回る上昇を示しています。
アベノミクスを失敗というなら責任は過去の不況にも
このように、GDPが上昇し、継続的な賃上げも行われている状況で、なぜインフレ率が上がらないのでしょうか。
それは、賃上げが未だ大手企業の一部に留まっているからでしょう。
実は、このような統計に上がってくる賃上げ率というものは、春闘で賃上げ交渉を行う大手企業などの平均でしかありません。
多くの中小企業や、零細企業のデータは含まれていないからです。
しかしながら、日本で大手企業と言われるのは全体の0.3%であり、残る99.7%が中小企業です。
つまり、統計として発表されるデータには、民間の実態が反映されていないということになります。
ただ、大手企業の利益が上がれば、続いて下請けの中小企業の利益も上がり、その先には中小企業の賃上げもあり得るでしょう。
しかし、個人消費の伸び率が未だ1%にも満たないところを見ると、いわゆる富の分配が、末端にまで行き渡っていないのではないかと考えられます。
もしくは、中小企業自体がまだ不況の際に抱えた赤字の解消に至っていないのかもしれません。
また、その時の反省から、利益の内部留保に走っているのかもしれません。
私見ですが、「アベノミクスは失敗だ、責任問題だ」と騒ぎ立てるよりも、この個人消費の停滞を解消する政策を考えることが、先決ではないでしょうか。
年金改革の失敗がアベノミクスの足かせになっている
また、合わせて国民の消費意欲の足かせとなっているものの1つが、年金問題です。
現在、日本のサラリーマンの平均年収は420万円程度と言われています。
その年収から現行の年金制度で65歳から受け取れる年金額を算出すると、満額でも月14万円~15万円程度しかありません。
共働き家庭であっても、女性の出産、子育ての期間を考慮すると、夫婦合わせた年金額は月24万円~25万円程度でしょう。
しかし、世論調査によると、リタイヤ後の生活に必要なお金は、夫婦2人世帯で月27万円、最低貯蓄額は2080万円という結果が出ています。
つまり、私たち国民は、老後のための貯蓄や生活資金の不足を、自分たちの責任で補わなければなりません。
このような将来に対する不安要素が、国民の財布のひもを固くしているのです。
ところで、アベノミクスよりずっと前の2004年、政府は「年金100年安心プラン」というものを打ち立て、いくつかの目標を立てました。
しかし、目標のすべてを達することはなく、改革は失敗に終わりました。
このことから見ても、年金制度はすでに崩壊しており、おそらく今後も改善に向かうことはないでしょう。
国民の多くはすでにそれに気づいており、それが消費意欲に歯止めを掛けているのです。
本当の失敗の責任の取り方とは何なのか
恐らく、そう遠くはない時期に、アベノミクスの金融異次元緩和政策は方向転換をすることになるでしょう。
なぜなら、政策金利による景気刺激策が限界に近づいているからです。
政策の一端を担っている銀行自体が、すでに悲鳴を上げ始めています。
AI導入による大幅な人員削減の方向性が打ち出されたことで、景気回復を目的とする政策との間にねじれが生じ始めていると言ってもよいでしょう。
では、どうすればよいのでしょうか。
「アベノミクスは失敗だ」として、安倍首相が責任を取って退陣すればよいのでしょうか。
しかし、アベノミクスは、まだ終わってはいないのです。
よく、政治家は「責任を取って辞職する」などと言いますが、それは本当に責任を取っていることにはなりませんよね。
今やるべき本当の責任の取り方は、次の一手を考えて手を打つこと、そして国民の信頼を取り戻すことではないでしょうか。
そして、私たち国民一人一人も、国や年金に頼るだけではなく、今ある資産を増やす努力をして、景気回復の一端を担う消費者になるべきではないでしょうか。
アベノミクスはまだ終わりとは言えない
経済は、崩壊しない限り続いていくものなので、経済政策においては、過去の負債を抱えつつも推し進めていくしかありません。
アベノミクスも、そんな状況を打破すべく打ち出された政策であり、目標に届いていないとしても、決してまだ終わってはいません。
そして、私たち自身も同じです。
よりよい生活や老後に向けて、前を向いて努力し続けることが必要です。