アパートの雨漏りトラブル!家賃を払わないのは正当な主張か

厄介なアパートの雨漏り。

原因を調べて適切な補修をするまでポタポタは止まらず、邪魔な養生は外れません。

賃借人の主張としてありがちな「雨漏りが止まるまで家賃は払わない」というものは正当な理由になるのでしょうか?

今回は、アパートの雨漏りトラブルと家賃の支払い義務について解説したいと思います。

アパートの賃貸借契約と家賃の支払い義務について

アパートで雨漏りが発生した時、賃借人が家賃を払わなくなるといったケースが見受けられますが、そもそもそれは正当なのでしょうか?

まずは、賃貸借契約における大家と賃借人の重要な義務を3つ確認してみましょう。

【大家の3大義務】

・賃借人にアパートを使用・収益させる義務
・賃借人にアパートを使用・収益させるために必要な修繕義務
・賃借人が必要費、有益費を支出した場合の費用償還義務

【賃借人の3大義務】

・大家への家賃の支払い義務
・賃借権の無断譲渡や無断転貸をしない義務
・アパートに対する善良な管理者としての保管義務

以上のように、賃借人は大家に対して「家賃を支払う義務」を負っていることがわかります。

対して大家は、雨漏りが発生した場合「修繕義務」を負っています。

つまり、雨漏りが発生したとしても、大家がそれを修繕または修繕しようと努力していれば、義務を履行していることになります。

これで賃借人が家賃を払わなかった場合は、債務不履行となり、契約解除や強制退去の事由に当てはまってしまうことになりますから注意が必要です。

アパートの雨漏りによる家賃の減額請求について

ではアパートで雨漏りが発生したことで、賃借人が利用上の不利益を被った場合でも、家賃は満額払い続けなくてはならないのでしょうか?

これに対しては、賃借人が家賃の減額請求を行う権利があります。

そもそも家賃については、借地借家法における家賃増減請求権によって、大家と賃借人の双方から増減請求を行うことが可能です。

但し、これは家賃が路線価(周辺相場)などから不相応と判断された時であって、「雨漏り」の場合は少し内容が異なります。

民法611条の「賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等」を類推適用(るいすいてきよう-解釈して適用)し家賃の減額請求を行うことになります。

これは雨漏りによってアパートの一部が滅失したわけではなく、使用することが困難な箇所が発生したため、家賃の一部を減額するといったものです。

つまり、雨漏りによって通常通りに使用できない範囲の分を家賃から引いてもらうように請求する権利があるということです。

単純に全体の面積で計算するだけではなく、キッチンやトイレなど使用頻度や使用の重要性を加味して交渉するようにしましょう。

アパートの雨漏りで家賃を一方的に払わないとどうなるか

賃借人は、アパートの雨漏りによって時に感情的になります。

アパートを通常通り使用できないばかりでなく、大切な家財まで汚損してしまったらどうでしょうか。

家賃を減額どころか、一銭も払いたくないといった心情になることも理解はできます。

しかし、家賃を一方的に払わず、賃借人として債務不履行となってしまった場合はどうなるでしょうか。

まず家賃が滞ると大家から家賃督促を受けることになりますが、これも放置すると大家には様々な権利が発生します。

賃貸借契約の解除と明け渡し請求、明け渡しの遅滞に伴う損害賠償及び相当期間の法定利息請求とエスカレートしていきます。

最終的には強制退去の訴訟をされ、最悪は強制執行によって退去させられることとなります。

こうなると裁判費用のほか、強制執行までにかかった諸費用も上乗せされ、賃借人は多額の負債を負うことになります。

そもそも発端は雨漏りから発生したことですので、賃借人は悪くないと思うかもしれませんが、これが現実です。

雨漏りをしたからといって、賃借人が家賃を一方的に払わないことは、実は最もやってはいけない債務不履行ということになりますので、注意が必要です。

アパートの雨漏りで大家が修繕せず放置した場合はどうなるか

アパートで雨漏りが発生しても、賃借人は家賃を払う義務があるからといって大家が放置するとどうなるでしょうか?

大家は賃借人に対してアパートを使用・収益させる義務を負い、修繕する義務を負っているわけですから、これを放置すると大家が債務不履行となってしまいます。

これは、大家に経済的な理由があって修繕できない場合も同様です。

損害賠償請求に伴う訴訟を提起され、最終的に賃借人には退去されます。

この時、係争中の家賃は供託(きょうたく)されることになります。

供託とは、金銭・有価証券などを供託機関に寄託することです。

係争中の家賃を大家に支払わず、供託機関に寄託することで家賃の支払い義務を履行していることになるのです。

供託すると家賃の場合、国家機関である供託所に家賃を預けて財産として管理させ、判決に応じて権利者に取得させたり、賠償金と相殺させたりすることになります。

供託といっても、賃借人はどんな時でもできるわけではなく、法的に供託する根拠がなければいけませんが、大家の債務不履行に伴う損害賠償請求の場合は供託の要件となります。

雨漏りの修繕には時間がかかる場合が多いので、賃借人に「放置されている」と誤解を招くことのないよう、丁寧でこまめな意思疎通が重要となります。

大家と賃借人の訴訟は良いことなし

アパートの雨漏りが発端となって大家と賃借人による法的な係争に発展してしまった場合、双方にとっても良いことは一切ありません。

大家からしてみれば、係争中の家賃は未払いか供託されていますので、家賃収入は途絶えたままです。

強制退去の強制執行ともなれば、重苦しい雰囲気の中で進められますし、アパートの近隣イメージも悪化するばかりでなく、他の入居者の退去にまで発展しかねません。

賃借人にとってみれば、係争中の費用負担や住居の問題など、生活にかかる負担は大きいものとなります。

学生や社会人であれば、訴訟行為は日常的な活動の大きな妨げとなります。

一応、賃借人には民法上の必要費償還請求権があります。

必要費償還請求権とは、賃貸借契約中に貸借人が必要費を支出した場合、その費用を大家に請求できる権利です。

そのため、大家にかわって一時的に費用を負担し、雨漏り修繕を行った後、大家へ費用請求することもできます。

しかし、これに応じることのできる大家でしたら最初から雨漏りを修繕しているはずですので、やはり最終的には訴訟になってしまうケースがほとんどです。

アパートの雨漏りトラブルがこじれてしまっても、大家と賃借人は双方が可能な限り法的手段を行使することのないよう、よく話し合うことが大切です。

アパートの雨漏りトラブルにおける上手な和解方法

アパートで雨漏りが発生した時、原因調査などで速やかな修繕が困難である場合は、家賃を一部減額するなど大家と賃借人で取り決めることが大切です。

取り決め方法としては、民法611条を類推適用し、使用できない範囲や使用目的及び頻度、重要性などを踏まえ、家賃全体の何%であるかを判断します。

大家としてみても、雨漏りによって賃借人が退去してしまうより、家賃の減額で和解出来たほうがメリットは大きいといえます。

また、大家が経済的な理由でどうしても雨漏りの修繕費用を捻出できない場合は、賃借人の承諾を得て、必要費償還請求権を行使してもらうといった方法もあります。

必要費償還請求権は賃借人が単独で行使すると、後々トラブルにもなりますが、大家と賃借人の双方できちんと取り決めれば、良い和解案ともなりえます。

これは賃借人が一時的に費用負担し、雨漏りなど修繕を行った後、大家に修繕費用を請求するものですが、将来発生する家賃に充当させれば、ひとまず費用を捻出する必要がなくなります。

大家と賃借人双方の同意があれば、和解書を取り交わし、修繕費を将来の家賃に充当することを明記した上で、司法書士に依頼すれば安心です。

このように、何か問題があっても双方がよく話し合い、解決策を模索することが大切です。

大家と賃借人はよく話し合うことが大切

このように、アパートで雨漏りが発生したとしても、賃借人が一方的に家賃を払わないことは債務不履行であることがわかります。

同時に、大家も自己の義務として、雨漏りを修繕するように努力する必要があります。

時に感情的なトラブルから係争に発展してしまうと、大家にとっても賃借人にとっても良いことは一切ありません。

どちらかが一方的な対応になることがないよう、双方よく話し合うことが雨漏りトラブル解決への近道です。