新築の頃を思い出すと、懐かしく感じるかと思いますが、時と共に、物件も年をとっていきます。
所有しているアパートも、老朽化してきたと感じる人もいるのではないでしょうか。
また、空室による採算の悪化や、防災性に問題がある場合は、アパートの建て替えを検討している大家さんもいるのではないでしょうか。
今回は、アパートの老朽化に伴う立ち退きについて、お話していきます。
老朽化したアパートは相続資産として不利?
アパートを建ててから30~40年ほど経過していると、ローンの返済も終わり、ホッと胸をなでおろしていることでしょう。
そうなると、1室や2室、空き部屋があったとしても、さほど気にすることもないでしょう。
しかし、日頃からメンテナンスをせずに、家賃を下げて入居者を待っているようでは、採算は悪化するばかりです。
また、問題となっているのは防災性です。
近年、さまざまな天災がありますが、そのなかで最も懸念されるのが大地震です。
メンテナンスが行き届いていない、または耐震基準に達していない物件は、天災によって一部損壊のリスクがあります。
住人までも被害が及ぶと、大家さんの管理責任を問われることもあります。
そして、二次災害である火災です。
特に、木造アパートの火災は、近隣にも広がる可能性があります。
自治体によっては、木造アパートの無料耐震診断を行っていたり、建て替えに助成金を出しているケースもあるほどです。
老朽化した物件は採算の悪化、防災性といった問題を解決しないことには、相続資産としても不良資産になってしまいます。
立て直すために、一刻も早く住人に立ち退きしてもらおうとしている大家さんも、いるかもしれません。
アパートを相続するときに気を付けること
相続資産としても不良資産になってしまうと、先述しましたが、相続とは、どういったことなのでしょうか。
相続とは、被相続人の権利や義務を引き継ぐことです。
引き継ぐ価値のあるものなら良いですが、立ち退きを要するような老朽化したアパートは
不良資産になってしまうものも、数多くあるのが現状です。
また、異議を申し立てないで引き継ぐことは、思わぬリスクを背負うこともあります。
被相続人の借金や保証債務なども、一緒に引き継ぐ必要があることを、忘れないでください。
そして、通常の財産分割と異なり、相続人の話し合いだけでは決まりません。
例えば、長男が一番多くの財産を引き継ぐ場合には、債権者(金融機関)との交渉が必要となります。
借金の債務は、相続する兄弟の連帯債務のままとなってしまい、思わぬトラブルになりかねませんので、気をつけましょう。
老朽化したアパートすべてが不良資産とは限らない
古い老朽化したアパートを相続したとしても、すべて不良資産になるわけではありません。
借金がなく、住人からの確実な収入があり、右肩上がりなら相続としても、そう悪い話ではないのです。
注目するべきところは、アパート経営のリスクを考え、今後予想される見通しが立っているかどうかです。
適格なアドバイスを得るためにも、税理士や弁護士、不動産鑑定士や建築士など、プロ視点で判断してもらうことをおすすめします。
どんな問題が起こりやすいのか、アドバイスを聞きながら判断していきましょう。
賃貸不動産であるアパートを相続した場合、土地や建物の資産を、もらえるだけではありません。
アパート経営も同時に、引き継ぐことになります。
うまく経営できれば、収益も上がり資産となりますが、経営に失敗すれば、元も子もありませんよね。
こうした経営の難しさも踏まえて、引き継ぐかどうかを決めていきましょう。
別の話題に逸れていましたが、本題に戻ります。
大家さんが住人に立ち退きしてもらいたいときは、どのようにしたら良いのでしょうか。
アパートの老朽化を理由に立ち退きしてもらえるか
住人に立ち退きをしてもらうということは、大家さんから「賃貸借契約を解約する」ということになります。
これについては「正当事由」が必要になります。
建物の借家契約について定めた法律である借地借家法では、この正当事由がなくして、解約はできないとされているのです。
正当事由ですが、明確な基準はありません。
さまざまな環境や事情で判断され、それ相応の理由がなければ認められません。
例えば、採算の悪化が原因としても、認められることはないでしょう。
もちろん、大家さんが提示した立ち退き料に住人が理解し、納得すれば退去に向かいます。
老朽化しているアパートは、耐震基準をクリアしていないことが問題です。
築年数が古く、耐震基準をクリアしていないため、倒壊の危険がある場合は、正当事由として認められる可能性が高いです。
しかし、耐震性だけとなると、補強工事で解決する場合もあるため、この場合は建て替える必要はないと判断されてしまうかもしれません。
耐震補強をするとなると、費用が掛かり、補強工事自体が、現実的でないこともあります。
その場合、立ち退き料など入居者へのフォローがきちんとされているかどうかも、正当事由を認める判断のひとつとされるので、参考にしてみてください。
耐震強度が不足している、倒壊の危険があるとなれば、住人も納得してくれることでしょう。
法律的には、賃貸借契約の解約交渉は6ヶ月前からです。
余裕を持って1年前くらいには、しっかりと話し合い、立ち退き交渉をしていきましょう。
アパートの住人に立ち退き料の支払いは必要?
老朽化したアパートを所有している大家さんから、賃貸借契約を解約するためには、正当事由が必要とお伝えしました。
その正当事由を認めるまでに至らない場合、考慮されるのが立ち退き料です。
逆を言えば、認められる正当事由があれば、立ち退き料の支払いは必要ありません。
では、立ち退き料を支払う場合はどうなるのでしょうか。
立ち退き料に、一般的な相場というものはありません。
ですが、算定方法として、3つのポイントがあります。
①引っ越しにまつわる費用
住人が、新しい住居に引っ越しをするときの引っ越し費用・敷金・礼金・仲介手数料などです。
②利益の補償
店舗や事務所などのテナントの場合、立ち退くことで住人が事実上失う、営業権などの利益補償です。
一般的な賃貸アパートの場合は、家賃5~6ヶ月分が目安だとも言われています。
③借家権
こちらは、主に戸建ての場合ですが、立ち退くことで消滅する借家権です。
状況や環境などによって金額は変わりますし、あくまでも目安なので、立ち退き料に相場はないと言えます。
スムーズに立ち退きしてもらうためにできること
老朽化したアパートを手放すのは、大家さんにとって大きな選択かもしれません。
しかし、立ち退きをする住人の気持ちも同時に考えなければなりません。
住居が変わるということは、生活も変わります。
住人にしてみれば、これからどうなるのか不安ですよね。
こうした不安から、立ち退きに反対する人もいるかもしれません。
そこで、住人の立ち退きをスムーズに行うためのポイントがあります。
住人が、新たに住む住居を斡旋することです。
このとき、注意が必要です。
地域によっては、同じように老朽化した建物の建て替えが進み、立ち退きをする住人に見合った物件を、探すことが困難になってしまいます。
たとえ住人から立ち退きに了承を得たとしても、現実的に見ると、引っ越しができない状態になってしまいます。
この問題を解決するためには、不動産会社と連携しながら、候補物件をピックアップしてもらいましょう。
そして、住人との立ち退き交渉が成立したら、直接引っ越し先の部屋に訪ねてみるなどの、フォローも大切です。
理解と納得のうえ立ち退いてもらう
アパートといえども、住み慣れた住居から立ち退き、新たな物件に住み替えることは、簡単に受け入れられることではありませんよね。
しかし、住人の安全が第一です。
アパートの老朽に伴う立ち退きに納得してもらえるように、しっかりと話し合いましょう。
少しでも住人の負担が軽減できるように、さまざまなフォローも忘れないようにしましょう。