新築よりも手が出しやすい価格から、近年は中古物件にも人気が集まっています。
中古物件をリノベーションやリフォームして楽しむ方法も話題になっていますよね。
しかし、こうした建物を購入する場合に、気を付けていただきたいことがあります。
それは、アスベストです。
建築材や壁紙に吹き付けられたアスベストの危険性や、簡易的な見極め方を解説していきます。
アスベストの健康被害
はじめに、アスベストの問題点についてお話します。
アスベストは別名「石綿(いしわた)」とも呼ばれていて、繊維状になっている鉱物のひとつです。
耐熱性や保温性が高いことから、これまでさまざまな用途で使われてきました。
機能性だけを見れば優れた代物ですから、壁紙や建築材としても、放火服としても活躍してきたのです。
しかし、1970年代に差し掛かったところで、アスベストが健康被害を及ぼすことが明るみになりました。
髪の毛の1/1000以下の細さであるアスベストは空気中に舞い、気づくことなく体内に侵入し、人の肺の奥まで入り込んでしまいます。
そして、体内に侵入したアスベストは体の組織を傷つけ、さまざまな病気を引き起こしてしまうことが判明したのです。
中皮腫という病気は発症原因のほとんどがアスベストといわれていますし、石綿肺といわれているじん肺や、肺がんといった病気の原因にもなります。
このように年々アスベストによる被害が報告され、2000年代に入ってようやくアスベストの使用が禁止されたのです。
天井や壁紙に吹き付けていたアスベスト
アスベストの健康被害を最も受けたのは、建築関係に携わっていた人達であるといわれています。
耐久性や保温性が高いといったアスベストの特性から、建物の天井や壁紙などにアスベストを吹き付けることがポピュラーな工法になっていたからです。
また、こうした吹き付け作業のほかにも、断熱材や屋根といった多くの建材にアスベストが含まれていました。
もし防塵マスクをしないで作業をしていたら、肺には大量のアスベストが取り込まれてしまったことでしょう。
そして、建築関係者だけでなく、アスベストを製造していた人達もアスベストによる健康被害を受けていました。
アスベスト製造による健康被害は工場のなかにとどまらず、工場付近の住人まで及びました。
工場内や直接アスベストを扱う作業に従事していなくても、近辺にアスベストがある限り一定のリスクが生じてしまいます。
国土交通省は、1956年~2006年までに建設された鉄骨造や鉄筋コンクリートの建築物においてアスベストが使用された可能性があると予測しています。
とはいえ、この時期に建設された建物全てにアスベストが使用されているわけではありませんから、必要以上におびえることはないでしょう。
使われているかもしれない、といった知識を持っているだけでも大切なことです。
古い建物や壁紙には注意
アスベストが問題になったのは建設関係だけではありません。
実は、インテリア関係においてもアスベスト商品が使用されていたため、大きな問題になったのです。
例えば、1985年頃まで塩ビタイルの補填剤として、アスベストが使われていました。
アスベストを使うことで安定感が増し、隙間防止にもなっていたのです。
また、かつてのクッションフロアやクロスは、防火性能や強度をつけるためにアスベストが使用されていました。
当時は品質を高めるためにアスベストを使用していたのにも関わらず、後々健康被害が話題になるとは思いもよらなかったでしょうね。
ここで注目したいのは、建設関係で吹き付けられていたアスベストは青石綿であり、インテリアで使われていたアスベストは白石綿ということです。
白石綿は発がん性が低く、非飛散性物質であるため、健康被害への危険性はそれほど高くはありません。
そのため、当時のクロスを部屋の壁紙として使っていてもさほど問題ではないと言えるでしょう。
また、1987年にアスベストが含まれる壁紙は製造終了となっていますので、それ以降に張られた壁紙であれば警戒する必要はありません。
ただし、1987年以前の建物において、リフォームによる麹や建て替え、壁紙やクッションフロアを剥がすなどの行為をするときには、注意する必要があります。
なぜなら、解体したり、剥がしたりする工程のなかで、アスベストが飛散するリスクがあるからです。
古い建物であればアスベスト壁紙が使われている可能性はゼロではないため、十分注意しましょう。
アスベストが使用されているか見極める
この記事をお読みになっているみなさんが心配されているのは、現在住んでいる建物にアスベストが使われているかどうかではないでしょうか。
そこでこの項では、アスベストが建築上どのように使われていたかについてと建物が建築された年代から、お住まいの建物にアスベストが使用されているかどうかについて、参考までに予測していきます。
建設関係で使われてきたアスベスト(含有量5%以上)の吹き付け禁止措置がはじめて行われたのは、昭和50年のころです。
やがて平成の時代を迎え、平成7年には含有量1%以上のアスベスト使用が禁止となり、平成18年にはアスベストの使用が全面禁止となりました。
以上の経緯から考えると、昭和50年以前に造られた建物にはアスベストを多く含む吹き付け材が使用されていた可能性が高いということです。
また、昭和51年以降にも含有量5%未満のアスベストの吹き付け工事は行われていたことを踏まえると、特に危険性の高い青石綿が使用禁止となった昭和62年までの建物には注意する必要があると考えましょう。
昭和63年以降も、アスベストが混ざっている石膏ボードやサイディングは使用されておりました。
しかし、このような製品には、健康リスクの低い白石綿が使用されていたため、通常の生活をする上では問題はないと言えます。
ただし、建物を解体するときやリフォームなどの工事を行う場合には、アスベストが飛散する恐れがあるため、事前に飛散を抑えるための措置をとる必要があります。
また、アスベストが含まれる建材や壁紙は、撤去にも費用がかかってしまいます。
もし中古住宅を購入する際には、アスベストが使用されていた場合に生じる健康的・金銭的リスクを知っておくべきです。
アスベストが使用されているかどうかは素人では判断がつきにくいことなので、少しでもアスベストの使用が疑われる場合には専門家に相談しましょう。
アスベストと見分けが付かないロックウール
アスベストと同様に、耐火性や断熱性を向上させる目的で、現在も壁紙等への吹き付けが行われている物質があります。
それは、「ロックウール」です。
見た目はアスベストにそっくりなのですが、ロックウールによる健康被害は報告されていないため、健康被害のリスクがほぼない物質と言えるでしょう。
しかしやっかいなことに、見た目でアスベストとロックウールの区別をつけることは非常に難しいのです。
以上の特性から、これまでロックウールであると思っていたものが「実はアスベストだった」というような事態も想定されます。
もし健康を脅かすアスベストであれば、さまざまな弊害が起こりますよね。
そこで、吹き付けのアスベストを見分ける簡易的な方法を、次項でご紹介します。
ただし、見分けられるのは吹き付けされたアスベストだけで、アスベストが混ぜ込まれている製品については判別が難しいです。
顕微鏡等で繊維を確認したとしても、確実にアスベストが含まれているかどうか判断を下すことはできません。
建材にアスベストが含まれているか正確に判断したい場合には、建材の品番を調べて、メーカーに問い合わせを行うことが確実でしょう。
簡易的なアスベストの見分け方とアスベスト壁紙の回収方法
まず、ここからご紹介するアスベストとロックウールの判定方法はあくまでも簡易的なものですから、ご参考程度にお考えください。
また、アスベストの可能性があるものを取り扱うのですから、決して吸い込まないように十分に注意した上で判別を行いましょう。
そして、最終的な判断は自分で行わず、専門家に依頼することをおすすめします。
▽指で砕く
親指と人差し指で、吹き付けられた綿を少量剥ぎ取ります。
そして、剥ぎ取った綿を指先を使って転がしてみてください。
アスベストの場合は変化が見られませんが、ロックウールであれば、パラパラとした粉状になります。
▽酢をかける
先ほどと同様、指で綿を少量剥ぎ取ります。
そして、取った綿に、酢をかけてみてください。
ロックウールは酸に弱いため酢の影響で溶けはじめますが、アスベストは溶けずに酢を吸収してゲル状に変わるでしょう。
最後に、アスベスト建材の回収と廃棄の方法をお伝えします。
壁紙の張替え工事などでアスベスト壁紙の回収を行うときは、近隣住人や環境にアスベストによる悪影響を与えないように配慮をしなくてはなりません。
具体的には、アスベストが飛散しないように建材や壁紙は粉砕せず、また湿らせてから解体するなど、法律で定められた手順に沿って解体や回収を行う必要があります。
そのため、専門の産業廃棄物処理業者に依頼することになり、通常の産業廃棄物処理を行うときと比較すると数倍の費用がかかります。
以上のように、購入した中古物件にアスベストが使用されていた場合、健康被害のリスクだけでなく、アスベストを安全に解体・回収するための費用面でもリスクが発生してしまうのですね。
アスベスト被害に遭わないために
中古物件を購入する時には、内装や価格といった条件から検討することが多いかと思いますが、アスベスト使用の有無といった見えない部分にも気を配る必要があります。
素人では判断できないことも多々ありますから、一度専門家に判定してもらうと良いでしょう。
また、内装に白石綿を含む壁紙などが使われていた場合、生活を送るうえで健康被害のリスクは低くとも、リフォームなどの工事をするときは十分に注意しましょう。