近所の空き地に家を建てている場合など、工事現場の道沿いに看板が掲げてあるのをご存知でしょうか。
そこには、工事の施工会社やその連絡先、建設許可証などとともに、○○様邸新築工事などと、住む人の名前まで書かれています。
しかし、中には看板に名前を書くことに抵抗がある人もいるようです。
ところでこの表示は、何のためのもので、絶対に必要なものなのでしょうか。
どこの工事現場にもある建築主の名前入りの看板の目的は?
毎日通る駅までの道で、空き地だったところに、ある日柵ができていて、そこに○○様邸新築工事などと看板が出ていることがありますね。
通りすがりに見ると「ここに家を建てて、誰か引っ越してくるんだな」などと思います。
そして、「結構広い土地だから、お金持ちの人かも」とか「駅近でうらやましいな」などと興味本位で見てしまったりします。
同じ町内でなくても、通り道に家ができるというだけで興味がでてしまうので、お隣りさんやご近所さんは、おそらくもっと気になりますよね。
一方、家を建てる側としては、ジロジロ見られたり、興味本位で人に覗かれ噂されたりするのは、あまりよい気分ではありません。
まだ住んでもいないのに、工事現場の看板に名前までさらされて、周りに好奇の目で見られるのです。
そして「今どき不特定多数の人が通る道に自分の名前をさらすなんて、個人情報保護の観点からもおかしいでしょ」と思ったりするわけです。
ところでこの看板は、どこの工事現場でも見かけるものですが、何か法律で決められているものなのでしょうか。
工事現場に建築主の名前入りの看板を立てるのは法律で定められている
実は、工事現場の看板については、建築基準法第89条に定められています。
「工事の施工者は、当該工事現場の見易い場所に、国土交通省の定める様式によって(中略)表示をしなければならない」のです。
何を表示するかというと、建築主、設計者、工事施工主および工事の現場管理者の氏名並びに当該工事に係る同項の確認があった旨などです。
これは「工事現場における確認の表示等」という規定で、ここに建築主の氏名とあるため、家を建てる人の名前が必要となるのです。
ただ、法律で定められているとはいえ、建築基準法の違反には、実は罰則がありません。
このようなことから、実際にどうしても名前をさらすことが嫌な人は、アルファベットなどで表示している場合もあります。
ただ、罰則がなくても、通報されたり調査されたりすると指導が入ることがあります。
もしどうしても本名を出すのが嫌ならば、法律違反をわかった上で、指導を覚悟して空欄にするとか、アルファベットにするしか方法がありません。
しかし、法律に違反してまで名前を隠す必要が本当にあるでしょうか。
法律的に工事現場の看板に必要なのは名前より3点セット
確かに氏名は個人情報であり、看板によって不特定多数の人に家の場所と名前が知られてしまいます。
しかし、よく考えてみると、表札だって同じです。
中には、表札に家族のフルネームを書いて掲げている家庭もありますよね。
だからといって表札を掲げている人が、個人情報を盗まれて何かトラブルに巻き込まれているかといえば、そんなことはありません。
逆に、郵便や新聞の正しい配達のためには、表札はないと不便といえるでしょう。
そう考えれば、法律である以上、建築主名の記載は仕方がないのかもしれません。
法律では、工事現場の看板に、前述の項目の記載を規定していますが、それ以外にも貼られているものがあります。
それは「建設業許可証」「労災保険関係成立表」「建築確認済表示板」の3点セットです。
これらを総称して法令看板といいますが、法律上大切なのは建築主名などよりもこの3点セットの方です。
きちんと許可を得て、適正な業者が安全にのっとって工事をしている現場かどうか、それを示すための看板といってよいでしょう。
看板の名前表示はご近所さんへの挨拶代わり
ところで、法律うんぬんではなく、工事現場のお隣りさんやご近所さんの立場に立ってみるとどうなるでしょうか。
工事現場というと、基本的に平日の朝9時ごろから夕方5時ごろまでは、工事用車両が出入りし、工事をする音が周囲に響きます。
今まで静かだった住宅地に、いきなり工事音が響き渡り、大きな工事車両が住宅街に入り込んでくるわけです。
このような工事に着工する前には、建築主と現場責任者などが近隣の住宅に、事前にお知らせと挨拶に行くのが一般的です。
平日の朝の何時から夕方の何時ごろまで、どのくらいの期間工事が行われるかと、工事の期間うるさくなることへのお詫びを述べるためです。
このような挨拶があって初めて、ご近所さんは工事に理解を示してくれるというものです。
ところで、ご近所さんに挨拶といっても、向こう三軒両隣くらいで、町内すべての家に挨拶するわけにはいきません。
そして工事現場で工事が始まったときに、どこの誰のものかもわからない家の騒音を聞かされるとしたら、町内の人々は、あまりよい気持ちはしないのではないでしょうか。
看板への名前表示は、せめてもの挨拶代わりです。
逆の立場に立った場合を考えてみると、わかりますよね。
工事現場の看板に名前を書くことで知ってもらうことができる
ちなみに私自身はマンション派で、一軒家でのご近所付き合いは子供のころしか経験がありません。
しかしマンションでも、入居すると管理人さんや両隣、向かいの部屋くらいにはご挨拶します。
それに加えて現在のマンションでは、入居時にリフォームをしたため、入居前には先に入居していたお隣りや上下階にも工事の許可をいただきにいきました。
そして入居してからは、管理組合の総会などもあり、役員や理事でなくても、なにかとお付き合いがあるものです。
それほど大げさなものでなくても、部屋から一歩外に出ると、エレベーターやホールで必ず誰かと顔を合わせるため、挨拶は欠かせません。
一方、新築一戸建てなどの場合は、お付き合いもマンションの比ではないでしょう。
回覧板やゴミ置き場の掃除当番、町内会費の集金や行事等、挨拶以上のお付き合いも多々あります。
つまり、町内すべてがマンションでいう建物内のようなものです。
しかも、自分が町内で一番の新参者で、町内会の決まりごとなども教えてもらわなければならない立場です。
工事現場の看板に建築主の名前を書くのは、ある意味挨拶の代わりで、町内の人たちに知ってもらう意味でも必要ではないでしょうか。
法律というより住民に心を開く証として名前を記そう
これまで見てきたように、工事現場の看板に建築主の名前を書くことは、法律で定められたことです。
しかしそれよりも、工事の主は自分であり、自分の家を建てるために、町内の人々に迷惑を掛けることに対する責任を負うことの証といえるでしょう。
そして、今後お世話になる町内の人への挨拶の代わりでもあります。
人間は、もちろんよい面ばかりではありません。
ちょっと大きい家を建てていると妬んだり、コンパクトな家だと馬鹿にしたり、嫌がらせをされることもあるかもしれません。
しかし、何もされていないのに、一方的にこちらから関わりを拒むように、看板の名前を空白にしていると、かえって周囲に不信感を与えかねません。
工事中、たとえ多少興味本位で見られたとしても、胸を張ってしっかりと自分の名前を記しておきましょう。
そして、新しい土地での新生活に、一日でも早くなじめるようにすることの方が大切です。
また、知り合わないうちは負の感情を持っていたとしても、知り合ってみるととても親密になるというようなことはよくあります。
そうなるためにも、最初から心を閉ざさず、周りに受け入れてもらえる姿勢を示すことが必要ではないでしょうか。
前向きに捉えて堂々と看板に名前を掲載しよう
法律は守るべきものです。
そして、守るべき理由もあるから法律になるのでしょう。
工事現場の看板に名前を掲載することも、法律で定められたことです。
しかしそれだけでなく、これから住む町への最初の挨拶と思って、皆さんも看板に堂々と名前を掲載していただきたいと思います。