賃貸でアパート、マンションあるいは事務所などを借りる場合、通常は「賃貸借契約書」を貸主との間で締結します。
貸主と借主が記名捺印した契約書をお互いが一部ずつ保管することになりますが、契約書が借主になかなか届かないトラブルが起こりがちです。
家賃が振り込みの場合は、契約書記載の振込口座に振り込みますので、このことからも遅くとも1ヶ月以内には手元に届くことが理想です。
では、契約書がいつまで経っても届かない場合、どうすれば良いのでしょうか。
賃貸物件における契約書の記名捺印は借主からが多い
入居希望者から申込書が提出されて無事に審査が通ると、契約書が作成されます。
建物を所有している大家さんが自ら物件を管理運営していて、仲介業者に空室募集を依頼すると仲介業者で契約書を作ります。
一方で大家さんが管理会社に業務を委託している物件は、管理会社にて契約書を作成します。
賃貸物件の大家さんである貸主が「甲」、借主が「乙」といった場合、先に借主が契約書二部に記名捺印を済ませます。
そのあとに貸主が記名捺印を行って、二部のうち一部を貸主が預かり、残りの一部が借主に返却されます。
たまに、前もって貸主が契約書に記名捺印しているケースがあります。
既に貸主が記名捺印を済ませていると、借主に記名捺印してもらえば終わりとなり、その場で借主に契約書を渡せます。
この場合、「借主に契約書が届かない」といった事態が起こりにくくスムーズに事が進むのですが、多くは貸主があとから記名捺印する流れになっています。
契約書が届かない理由は様々ですが、多く見受けられる主な原因については次項からご説明します。
賃貸物件の契約書に貸主が記名捺印するまで時間がかかり届かない
では、賃貸物件の契約書がなかなか借主の手元に届かない原因として、どのようなことが考えられるのでしょうか。
仲介業者一社が契約手続きを行う場合、仲介業者の担当者が契約書等の書類のやりとりを貸主と借主の間で行います。
出来上がった契約書を借主に記名捺印してもらったら、そのまま直接貸主に持っていき、記名捺印してもらいます。
しかし、仲介業者だけではなく貸主の管理会社も間に入るとなると、借主から記名捺印してもらった契約書は管理会社を介して貸主に届けられます。
契約書が遅滞なく仲介業者から管理会社へと渡れば問題ないのですが、忙しい担当者だと管理会社への訪問が後日になることもあります。
また、仲介業者や管理会社の担当者にもよりますが、入居が決まると安心してしまい、概して契約書など書類関係の処理を後回しにしてしまうこともあります。
管理会社の手元に契約書が届いても、貸主が近くにいない場合は郵送して契約書の記名捺印を依頼します。
郵送でニ、三日のタイムロスが既に生じますが、それに加えて貸主がすぐに対応できないこともあります。
貸主である大家さんが法人ではなく、普通のサラリーマンのケースも多くあります。
出張で長く不在だったり、場合によっては忘れていたりといったこともあります。
記名捺印だけでも非常に時間がかかってしまい、すぐには契約書が届かない状況となります。
社員が多忙で賃貸物件の契約書がなかなか借主に届かない
仲介業者や管理会社の担当者に時間的余裕がなく、遅れてしまうパターンも結構あります。
新入学や異動が多い1月から3月にかけての繁忙期は目の回る忙しさになり、このケースが特に多くなります。
空室募集を行って契約手続きをする業務と、入居者からのクレーム処理などの物件管理をする業務が別々のチームになっている会社ならまだ良いのですが、両方を区別なく行う会社だと、社員は慌ただしくなります。
入居希望のお客様を賃貸物件に何度も案内する一方で、隣の部屋から聞こえてくる生活音の相談が入居者から入ったり、契約駐車場に誰かが車を停めているといった連絡が入ったりします。
他の社員に対応を頼もうにも、全員が多忙で動けないこともあります。
その場合、すぐに対応すべき目の前の事に追われてしまい、記名捺印のために貸主を訪問する時間がとれなかったり、契約書を郵送するのを失念していたりといった事態が起こってしまうのです。
手続きをスムーズに進めるつもりでも、時間がなくて契約書類の処理が遅れがちになってしまいます。
こうなると、スムーズに借主の手元に契約書が届かないことになります。
賃貸物件の契約書が届かない場合は管理会社に何度も督促してみることから
契約書が届かない理由は他にもあると思いますが、いずれにしても届かない場合は何度も督促してみることです。
既に賃貸物件に入居済みで、1ヶ月や2ヶ月が経っても届かないケースは珍しくありません。
まずは担当者に督促ですが、「いつ督促したか」「何回督促したか」を記録しておくと良いでしょう。
契約書が今どこにあるのか、いつまでに返却されるのかを尋ね、期限までに返却されないようであれば、次に仲介業者の上司や店長など責任者へのアプローチが必要になります。
普通はこの時点で問題解決となるはずですが、上司や店長に苦情を言っても、返却がかなわない場合もあります。
何ヶ月経っても契約書が届かない場合の対応については次項でご説明します。
どうしても届かない時はしかるべき対応を
契約書が届かず何度も督促をしても解決しない場合、最終的には国交省の窓口に相談となります。
消費生活センターのような機関を利用する方もいらっしゃいますが、宅建業の監督官庁は国交省になります。
法人で物件を借りた場合、社内で毎月の支払いデータ登録などの業務が必要な場合があります。
このような業務では契約書がないと登録が進められないケースも見受けられます。
いつまで経ってもきちんとした登録ができない状況が続くのは避けたいところです。
その前に、貸主である賃貸物件の大家さんに直接会って相談をする方法もあります。
しかし、大家さんが遠方に住んでいたり、仕事が忙しかったりでなかなか会えない方であれば話はできません。
国交省に赴く際は、それまでとっておいた記録を基にして、時系列で状況をまとめ、契約書が届かない旨の相談をしてください。
問題が起きた時のために軽く考えないことが大事
賃貸物件の契約書に限らず書類を読むのが苦手で、契約書が届かない状態でも気にかけない方もいらっしゃるかもしれません。
家賃の振り込みについても、家賃の振込口座を管理会社から別途メールやファックスで教えてもらえば問題はありません。
しかし、そのまま放置してしまうと、どんな契約内容で物件を借りているのかが当然ながらわかりません。
入居中に何らかの問題が起きた時、まずは契約書の該当する条文を確認します。
パッキン交換のような小修繕は貸主と借主のどちらが直すのか、といった身近なことから、エアコンが壊れた時の費用負担も書かれています。
冷暖房が効かなくなり、備え付けのエアコンだから修理は貸主負担と思ったら、前入居者の残置物で借主が費用負担になっていた、というケースも実際にはあります。
また、解約して退去する時はどれくらい前に予告するのか、原状回復の範囲はどうなっているのかを確認するにも契約書は必要になってきます。
軽く考えずに、問題が起きた時のためにきちんとした対応をしておくのが大事です。
契約書が届かない時は早めの対応を心がける
あまり普段は目にする機会はないのですが、契約書をきちんと保管しておくべきなのはいうまでもありません。
何度も督促するのに気が引ける方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、賃貸物件に入居して契約書が届かないまま1年以上経ってしまった、という話もあります。
時間が経てば経つほど、ますます契約書は返却されにくくなります。
何より早めの対応がベストです。