円高になると、経済にはネガティブな影響が出ると考えられています。
特に関係してくるのは、輸出企業です。
なぜ円高が輸出企業に影響を与えるのか、解説します。
また、為替相場制がどのように決定されたのか、その為替相場が日本の経済にどのような影響を与えてきたのかもお話しします。
円高は不景気を招く?輸出企業との関係
円高になると、景気に悪影響を及ぼすといわれています。
なぜ景気に悪影響を及ぼすのでしょう。
円高の場合、輸出企業の売り上げ(ドル)を円にするとドルの価値が低いため減ってしまうからと考える人もいます。
しかし、これは景気に悪影響を及ぼす理由には挙げられません。
なぜなら、日本の輸出と輸入はほとんど同額だからです。
「輸出企業の売り上げ減」ということは「輸入企業の支払い減」ということです。
損失と利益が打ち消し合い、日本経済に大きな影響を与えるとは考えにくいです。
円高が景気に悪影響を及ぼすのは、輸出企業の生産が減るから、と考えられています。
また、円高になると輸入品が安くなるため、消費者が輸入品を買うようになります。
国産品の売り上げが落ち、国内生産も減ることになり、これが景気への悪影響になるともいわれています。
しかし、為替相場の変動はすでに景気に与える影響を持たない可能性がある、という意見があります。
2018年現在の政権が推し進めた経済政策によって、2013年頃から円安が進みました。
これによって輸出企業が輸出量を増やし、貿易収支が改善していくと期待されました。
しかし、貿易収支は改善せず、輸出数量は増えず、輸入数量も減りませんでした。
もちろん、このことについてはさまざまな意見があります。
貿易収支が改善しなかったということは、為替相場のせいでなく、日本製品が世界で売れなくなっているのではないか、という懸念さえ上がっています。
輸出企業を直撃する円高
しかし、円高になると上場企業の収益が悪化するということはいえるかもしれません。
景気への影響は少ないといっても、企業収益は減少する可能性があります。
なぜかといいますと、日本の企業は、海外に大きな資産を持っています。
海外の市場では、通常、海外通貨建てでビジネスが行われます。
つまり、同じ量輸出していても円高だと円に換算したとき輸出金額が減ります。
単価が減るのですから、売り上げに直撃します。
日本の企業は、国内だけでなく世界中でビジネスを行っています。
現在ではインターネットも世界に普及し、グローバル化が進んでいます。
日本国内の売り上げよりも海外での売り上げの方が高いという企業も多いです。
そのため、円高やドル安、ユーロ高などの為替の変動は企業の売り上げや業績に直接影響を与えます。
例えば、1ドル=150円だったとします。
日本の企業がアメリカで1万ドルの自動車を売るとすると、売り上げは150万円です。
しかしそれが1ドル=100円の円高になったとします。
同じ1万ドルの商品を売ったとしても、売り上げは100万円です。
為替の変動によって、こんなにも売り上げに差が出てしまうのです。
実際に輸出しているのは何十万台なのですから、小さな為替の差だったとしても売り上げに対しては大きな差になってしまいます。
円高が輸出企業に与える影響の大きさがわかりますよね。
円高はなぜ株価を下げるのか
また、円高は輸出企業にダメージを与えるだけでなく、株価にも影響を与えるといわれることがあります。
なぜかといいますと、先ほどご説明したように、輸出企業は円高によって少なからず影響を受けます。
そして、輸出企業の多くは、上場企業です。
つまり、円高になると上場企業の株価が下がるというのは、ある程度の事実といっても良いのかもしれません。
また、以前円高の際に株価が下がったという経験から、今回も株価が下がるだろうと考える投資家がいます。
そのような投資家は、円高になると急いで株を売ろうとしますので、株価が下がります。
実際に株価が下がるのを見て、「やはり株価が下がった。自分も売ろう。」と考える投資家が増えます。
この連鎖で、株価が下がるということがあるのです。
円高になったら株を売る、という投資家は一定数存在しますので、このような動きになるのです。
株価はある意味人気商売で、根拠のないウワサであっても値が動いてしまうものです。
投資家はこのような動きを敏感に察知して、株取引を行っています。
このことから、円高=株価下落という動きになってしまうのです。
そもそもなぜ円高や円安になる?
さて、これまで円高が輸出企業に与える影響などを見てきましたが、そもそもなぜ為替は変動するのでしょう。
これは、変動為替相場制によって為替が決定されているからです。
「フロート制」とも呼ばれ、為替レートの決定は外国為替市場(マーケット)の需要と供給のバランスによって自由に変動します。
変動為替相場制の歴史は浅く、1970年から採用されるようになりました。
それまで、金本位制に基づく固定為替相場制のブレトンウッズ体制を採用していましたが、1971年ニクソン大統領が金とドルの交換をしないと表明したことにより崩壊しました。
その後、変動相場制を採用する先進国が増え、1976年に国際通貨基金において変動相場制が正式承認されました。
これをキングストン合意といいます。
現在では、毎日為替レートが変動し市場でレートが決定していますが、相場の急変などの非常事態が起こると中央銀行が市場介入し為替操作を行うことがあります。
そのため、完全にフリーな変動為替相場制ではない、という意見もあります。
輸出しやすいように円安に設定されていた
前項でもお話ししたように、現在、為替は「変動為替相場制」という制度によって運用されており、そのときの通貨が持つ経済力によって価値が決定されます。
現在では為替は変動するものとして定着していますが、1973年まで日本では「固定相場制」を採用していました。
つまり、現在では「1ドル=〇〇円」は毎日変動しますが、それまで1ドルの為替は何円という金額が決まっていたのです。
1945年、日本は第二次世界大戦に敗北し敗戦国となりました。
そのとき日本の経済は疲弊しきり、立ち直れない状態でした。
しかし、立ち直れない状態からでも立ち直るしかありませんでした。
経済を発展させるしか日本が生き残る道はなかったのです。
この経済を発展させようとしたとき、固定相場制が導入されました。
「1ドル=360円」でした。
現在の相場が「1ドル=110円」程度ですから、かなりの円安であるといえます。
もちろん、当時と経済状況が違うので単純な比較はできませんが、今から考えると驚きの為替相場です。
なぜこのような相場になったのか、これにはアメリカの思惑が絡んでいます。
円高よりも円安の方が輸出に有利です。
アメリカは、日本に早く復興してもらいたいと考えていました。
当時は世界的に資本主義と社会主義が戦っている情勢がありました。
そのため、アメリカは日本が資本主義のもとで成功を収める様子を世界に知らしめたかったのです。
なぜ1ドル=360円に決まったの?
ところで、なぜ1ドル=360円になったのか、有名な説があります。
「円」は1周360度だから360円にした、というものです。
しかし、これは誰かが言ったジョークであったといわれています。
実際には、アメリカの経済調査団により、アメリカの経済と日本の経済を分析した結果の為替相場であったようです。
当時のアメリカと日本の経済を考えると、本来「1ドル=320円~340円」あたりが適正と算出されましたが、日本の復興を早めたいという思惑があり「1ドル=360円」の固定相場になった、というのです。
そのため、日本は円安の状態から復興を始めることができました。
もし円高に設定されていたら、今日の日本はなかったかもしれません。
円安にすると、日本にたくさんの外貨が流れ込むことになります。
それが復興を早めることにつながります。
当時の日本は海外のものを輸入するというより、日本で作ったものを輸出して海外に売ることで経済的な復興を目指しました。
このような理由で、日本は輸出に有利な円安のもと、アジアの輸出大国として急激な発展を遂げます。
これが日本の高度経済成長を支えた国際的な要因といわれています。
日本の経済といっても世界と関係している
今回驚いたのは、固定相場制があえて円安に設定されていたということです。
アメリカが日本を発展させるためにそのようにしたのであれば、日本の高度経済成長はアメリカの操作によって生まれたものだったと考えることもできます。
もちろん日本の努力なくしては高度成長もなかったと思いますが、アメリカの思惑が絡んでいたとなるとなんだか複雑な思いがします。