なぜ通貨偽造罪は重罪なのか?通貨の信用が国家を揺るがす

お金がたくさんあれば、と誰でも夢に見るものです。

宝くじが売れるのも、億万長者になれるかもしれないという夢があるからですね。

しかし、お金が欲しいからといってお金をコピーしてしまったら、それは通貨偽造罪という罪になります。

通貨を偽造することは大きな罪です。

通貨偽造によってどのようなことが起こり、どのような罪に問われるのかを見てみましょう。

日本が発行している通貨「円」

日本では、円という通貨が使われています。

円は硬貨と紙幣の2種類があります。

硬貨は500円、100円、50円、10円、5円、1円の6種類です。

紙幣は1万円、5千円、2千円、千円の4種類です。

紙幣とは、政府が発行する貨幣に代用される証券のことです。

しかし、政府は紙幣を発行しておらず、日本で流通しているのは銀行券です。

銀行券は、政府に権限を与えられた銀行が発行する証券のことで、日本では日本銀行だけがその権限を有しています。

日本では1万円札がいちばん価値の高い通貨のため、1万円札が偽造されることが多いです。

通貨偽造罪は、使う目的のために、通用する貨幣・紙幣・銀行券を偽造する犯罪を指します。

同様に、通貨変造罪という罪も存在し、それも使う目的のために通用する貨幣・紙幣・銀行券を変造する犯罪を指します。

通貨偽造罪と通貨変造罪

通貨の偽造とは、通貨発行の権限を持つもの以外が通貨を模倣して作ることです。

通常、一般人が間違えるほど似ているものを指します。

1万円札をカラーコピーし、同じ大きさに切って両面を貼り合わせたもの偽造したとします。

よくよく見れば偽造と見破れるかもしれませんが、何気なく見ただけでは本物と見間違えるでしょう。

そうなると通貨偽造罪です。

しかし、一般人が簡単に見破れるような出来の悪い偽造であった場合、それは通貨偽造罪の未遂となります。

もちろん未遂でも処罰されますので、似ないように作ればよいというわけではありません。

通貨に似た、紛らわしいものを作っただけでも、通貨及証券模造取締法で処罰対象となります。

通貨変造罪という犯罪もあるとお話ししました。

通貨の変造とは、通貨発行の権限を持つもの以外が本物の通貨に手を加えることによって通貨そっくりのものを作ることです。

例えば、千円札を加工して1万円札に見えるものを作ったとします。

これが変造に当たります。

偽造罪や変造罪は、「使う」という目的で成立します。

そうであれば、使う目的ではなく例えば資料としての目的で作るのであれば罪にならないのかというと、そういうわけでもありません。

通貨及証券模造取締法では、目的がなくても通貨の模造は処罰対象です。

つまり、どのような目的であったとしても通貨に似たものを作ろうとしたり、通貨を加工することは罪になるのです。

このように、通貨の偽造は大変厳しく取り締まられています。

通貨偽造は重い罪に問われる

通貨偽造罪は、法律上「無期または3年以上の懲役刑」という重罰が課せられています。

殺人罪が「死刑または無期もしくは3年以上の懲役」なのですから、死刑がないだけで殺人罪と同等の重罪ともいえます。

裁判員裁判によって審理され、有罪となった場合は前科がなくても「懲役3年執行猶予5年」など、上限の判決とされることが多いです。

執行猶予が付かず、懲役2~4年の実刑となることもありますし、組織犯などはそれ以上の懲役刑になることもあります。

また、自分で作らなかったとしても偽造された通貨を使うと、偽造通貨行使罪になります。

こちらも重罪で、「無期懲役または3年以上の懲役(20年以下)」です。

なぜ、通貨偽造罪はこのような厳しい罰が設けられているのでしょう。

なぜ通貨の偽造は重罪なのか

通貨の価値は、国家が保証することによって成立しています。

国家の信用によって、通貨は流通しているのです。

そのために、通貨に対する信用がなくなってしまうと、国家を揺るがす大問題となります。

通貨がむやみやたらと偽造されて使われてるような国であれば、いつ破綻してしまってもおかしくありません。

通貨に対する信用を守る、これが国家にとってとても重要なことなのです。

もし、偽造通貨が取り締まられずにまん延してしまうと、一般人の日常生活は混乱します。

いちいち本物の紙幣かどうかを確認しなければならないという状態になってしまえば、経済活動が成り立たなくなり日本経済は大打撃を受けるでしょう。

通貨の偽造を簡単に考えてはいけません。

「1万円札をカラーコピーして、お金が1枚増えたくらいでそんなに大ごとか」と思われるかもしれませんが、通貨の偽造を放置することは国家の信用問題にかかわることなのです。

通貨の信用・国家の信用を守るため、通貨偽造罪は大変重い罪とされているのです。

明らかな偽物は偽造にならないことも

通貨偽造罪は、一般人が間違えるほど似ている通貨を作る犯罪です。

そのため、誰が見ても偽物だとわかる通貨を作ったとすると、通貨偽造罪にならない可能性があります。

2013年に、大阪府で2人の高校生が詐欺容疑で逮捕されました。

「百万円札」と書かれたおもちゃの紙幣を使い、本物の現金をだまし取ったのです。

おもちゃの「百万円札」を渡し、両替をしてもらうことで千円札10枚をだまし取ったとのことです。

このおもちゃの「百万円札」は紙幣に似せた市販のメモ帳をコピーして貼り合わせ、1万円札に見せかけたものです。

なぜ、通貨偽造罪ではなく詐欺罪だったのでしょう。

偽造通貨を使ってお金や商品を手に入れたとすると「偽造通貨行使罪」が成立します。

通常、この罪には詐欺罪の要素も含まれています。

この事件の場合、偽造したものがあまり稚拙で本物と間違えるレベルのものでなかったため、「偽造」には至らず「詐欺罪」のみが成立したということです。

誰から見ても偽物とわかるものであれば通貨偽造罪には問われないかもしれませんが、詐欺罪も十分に重い犯罪です。

出来心、いたずら心であったとしても絶対にやってはいけないことです。

偽造防止のための高度な印刷技術

通貨には、偽造を防止するためにさまざまな工夫が施されており、高度な技術によって印刷されています。

どのような工夫がされているのかがわかると、偽造通貨を見破れるようになるかもしれません。

一万円札の偽造防止技術を見てみましょう。

・透かし

カラーコピーしたものであれば、透かしがないためすぐに見破れます。

お札の真ん中の白い円の部分の透かしは有名ですが、もう1ヶ所透かしがあります。

肖像画の左肩のあたりに3本の縦ラインがありますので、知らなかった人はチェックしてみましょう。

ちなみに、5千円札は2本、千円札は1本のラインになっています。

・ホログラム

ホログラムもカラーコピーでは模写できない技術です。

・深凹版印刷

お札上部の両サイドにある数字部分などで採用されています。

・マイクロ文字

図柄の一部などが、虫メガネを使わないと見えないくらいの極小文字になっています。

「NIPPON GINKO」と書かれていますので、見つけてみてください。

隠し文字として「ニ」「ホ」「ン」というカタカナも隠されています。

・特殊発光インキ

ブラックライトを当てると、表の印象がオレンジ色に光り、地紋の一部が黄緑色に光ります。

・パールインキ

お札を傾けると左右の端の部分にピンク色の模様が浮かび上がります。

ほかにも、超細密画線や潜像模様などお札には持てる限りの印刷技術が結集しています。

通貨偽造を防止するために、これほどの工夫がされています。

偽造がどれほど重大な罪なのかが、お分かりになられるかと思います。

いたずらでも通貨の偽造は絶対ダメ

通貨の偽造がなぜ重罪なのかがわかりましたね。

たとえいたずらだったとしても、お金をコピーしてはいけないということです。

それをお店で使ってしまったら、いたずらではすみません。

思ってもない重い罪に問われてしまうのです。

通貨の偽造が国家の信用を揺るがすということを忘れてはいけません。