公的機関で証明書を発行してもらう際、「こちらに署名捺印を」と、お願いされた経験をお持ちの方は多いでしょう。
しかし、記名と署名、捺印と押印は意味が異なり、使い分けられていることはあまり知られていないようです。
そこで、今回は、それぞれの言葉の違いについて見ていきます。
また、外国人の場合はどうなるのかについても、ご紹介します。
署名と記名の違いとは?
名前の記入をお願いされた際、記入欄に「署名」と書いてあるか、「記名」と書いてあるかは、普通は意識されないと思います。
しかし、署名と記名にはきちんと意味があることをご存知でしょうか。
「署名」とは、本人自身が、自ら氏名を手書きすることです。
文字は人によって癖があるため、「本人を特定するために有効である」と考えられているのです。
そのため、本人以外の人が書いたと判明したら、その署名は無効になります。
これは、民事訴訟法第229条の「筆跡等の対照による証明」に規定されています。
ですから、他人が本人を偽って書くことはできません。
一方、記名は、必ずしも自ら記入しなくてはならないわけではなく、本人の同意を得て、他人が代理することが可能です。
また、パソコン、ゴム印で氏名を記載しても問題ありません。
しかし、そのような記載だと、本人の意思を確認するには不十分で、第三者が勝手に書類を作成している可能性も出てきます。
そのため、多くの書式には、印鑑を押すための押印欄または捺印欄が存在します。
捺印のお願いと押印のお願いの違い
それでは次に、捺印と押印の違いについて見てみましょう。
印鑑を押すことを、押印または捺印と言います。
どちらも行為は同じです。
捺印の「捺」の文字は、旧字体で、常用漢字ではないことから、公文書等に使用する場合は、「押印」と記載されていることが多いようです。
しかし、一般的な文書では、今も「捺」を使う例が多く、自筆の名前とともに印鑑を押す場合は「捺印」と呼び、自筆でない名前とともに印鑑を押す場合は「押印」と使い分けて呼ぶようです。
商法の第32条に、「この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる」と規定されていますので、押印だけでは意思表示の効力を成さないということです。
この条文で、「記名と押印が揃えば署名として使える」ことがわかりましたね。
しかし、実際に役所等で書類に記載するときには、「署名と捺印をお願いします」と言われることが多いのではないでしょうか。
つまり、署名があっても更に印鑑を押すことを求められるのです。
それはなぜでしょうか。
署名をしたのに捺印をお願いされる理由は?
記名と押印が、署名と同じ効力であるにも関わらず、なぜ署名と共に印鑑を押すことをお願いされるのでしょうか。
やや、過剰すぎる取り扱いにも感じます。
しかし、これには日本に古くからある「印鑑文化」が関係しているので、仕方のない面があります。
もちろん、書類に署名だけしても、法的には有効です。
しかし、大抵の場合、署名だけでは本人の意思表示としては不十分と考えられているため、内部規定で捺印を求めることになっているのです。
署名と捺印があって初めて、本人の意思であることが確実となるため、取引が安全に行えると考えられています。
そして、捺印で使用する印鑑も、書類の性質によっては、役所に届けている「実印」を求められることがあります。
これは、「本人であることを証明するために必要なのだ」と理解しましょう。
署名捺印の他に、住所の記載が必要な書類もある!
署名の効力は高く、更に捺印をすることで、信用度が強まることはわかりました。
そこで、氏名と印鑑がある書類を、確実な信順に並べたところ、次のようになりました。
①署名と捺印
②署名のみ
③記名と押印
④記名のみ
(④は、普通認められない)
しかし、契約書等の重要な書類の場合は、更なる信用性を高める証拠として、「住所」の記載もお願いされます。
不動産の売買契約書を例にあげると、所有権のある不動産を他人のものに移転させるとても重要な書類です。
契約書に記載した売り主と買い主が本人でなかったらどうなるでしょう。
自分の土地を、知らないうちに他人に売られ、更に転売されてしまったら、取り戻せなくなる可能性がありますよね。
そこで、このような他人物売買を防ぐため、更なる安全性確保が必要となります。
そのため、住民票に記載の住所を書くことを求め、
・捺印した印鑑の印鑑証明書
・記載した住所の住民票の写し
これらの公的書類を契約書と共に提出することで、本人である証拠を増やすことなります。
契約は、本人同士で行うこともありますが、不動産屋の仲介であれば、宅建士の方も確認しますし、登記を行う司法書士の方も、きちんと見極めています。
署名と捺印だけでなく住所の記載はとても大切なのです。
外国人にも署名捺印をお願いするの?
外国人の方が日本において、契約書等を作成する場合、日本人と同様に、署名や捺印、印鑑証明等を用意することをお願いされるのでしょうか。
外国人の署名といえば、自筆で行うのが普通ですが、日本語とは異なり、誰でも読めるような文字で書くわけではありません。
どちらかというと、本人しか書けないような、癖のある「サイン」です。
また、外国人の方は、ほとんど印鑑を持っていないため、役所で印鑑証明を用意することもできません。
しかし、「外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律」というものがあり、そこでは次のように定めています。
・外国人が法令の規定により捺印すべき場合、署名をもって捺印に代えることができる(署名及び捺印を要する場合には署名のみで足りる)
つまり、外国人はサインをすれば署名と捺印を兼ねることが可能とわかります。
そして、日本人と同じく、サインに対する証明を取る必要があり、それが、「署名証明」または「サイン証明」というものです。
署名証明は、申請者のサイン(及び拇印)が、確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
証明の方法は、手持ちの書類に証明を貼付する方法と、証明書を発行するものと2種類あるため、あらかじめ提出先に確認しておく必要があります。
これがあれば、市区町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができます。
外国人が契約するには、署名と住所の記載が必要!
外国人が日本において、契約書を作成する場合は、日本人と同じ手続きが必要です。
署名、捺印はサインとサイン証明等で代えられますが、住所の証明はどのようにしたらよいのでしょう。
住民票の提出をお願いできるものなのでしょうか。
平成24年7月の法改正により、在留期間が3ヶ月を超える外国人は、日本人と同様に住民基本台帳の適用対象となりましたので、役所で住民票を入手することが可能です。
しかし、短期滞在の外国人や海外に居住する外国人は、住民登録できないので、自分の国籍がある国の官公署で発行する書面(住民登録証明書)を入手し、住所を証明してもらう必要があります。
ただ、日本語でないため、本当に住所を証明するものであるかの判断を必要とします。
そのため、その国の公証人の認証のある「住所に関する宣誓供述書」を住所の証明書として代用するようです。
また、国により手続きが異なるようで、日本とは違い、書類の発行には手間も時間もかかります。
近年は、日本に住む外国人による株式や不動産の購入、遺言書の作成なども増えています。
外国人の方が、日本で何か契約する際には、住所の記載が必要になることが多いので、「住所に関する宣誓供述書」の取り方などを確認しておくと良いですね。
日本での公文書の発行や契約には署名と捺印が必要!
「署名や捺印のお願い」と聞くと任意の行為に思えますが、日本で権利を主張するために作成する書類には、これらを欠かすことができません。
特に、日本に住む外国人が不動産などを売買する際は、署名捺印はサインを代用しますが、住所を証明する書類が必要です。
署名や捺印は、意思確認にとても重要な意味を持つので、お願いされたらきちんと応じるようにしましょう。